Dscf0493

赤い月は<下巻>へと進む


満洲帝国の崩壊だ。


私の父が朝鮮木浦の陸軍にいるとき

ハルピンに出張を命ぜられた。


松花江に通じる石畳は明治の船着き場へ

行く道だ

伊藤博文首相が朝鮮人の安重根に暗殺された

ハルピン駅の裏側に当たる。


その石畳道は、戦前ロシアが占領している時は

<キタイスカヤ街>日本占領下は<ダイヤ街>

今は中央大街と名前を変えている。


だから父はダイヤ街を歩いて松花江の岸部に行った


私とモホァンジェは夜の中央大街(スカヤ街)を歩いた

この共産党がつけた名前が嫌いだ


夜になると気温は一段と下がる。

マイナス30度になっているので、空気を吸い込む

と頭がくらくらした。


満洲人のホァンジェもさすがに寒いのか

マフラーで覆面をする。


黒い瞳だけが覗いて、一段と魅惑的だ。



松花江の岸部公園には何百という氷像が

内部に赤青黄の蛍光灯を入れて輝いて

立っている。


此の世のモノとも思われない幻想の世界だ

あまりの寒さに岸辺のマックに入る。


ハルピンっ子は冬にアイスを食べる

ホァンジェもマフラーを下げて

ペロッとソフトを舐めながら

身ぶるいするような美しい瞳で

私を見上げた


僕 春になったら 必ず会いに来るよ


ホントに来てくれる?」


約束するよ、 日本は約束の時 小指を

絡ませるんだ


湯気で真っ白になったマックの窓辺で

ホァンジェの小指に絡める。


ハルピンの氷夜は更けていった