華麗の空~小難しい本のナルホド書評 -154ページ目

スターリン(1)―共産主義は結果が全て。勝ったヤツが、正しいのだ。

これが、「胸が詰まる」という感情なのか。
本書を読んで、初めて感じた気持ちであった。

スターリン―赤い皇帝と廷臣たち〈上〉
スターリン―赤い皇帝と廷臣たち〈上〉


本書は上巻だけで600ページ超あるが、今回は20日ほどで一気に読んだ。
なにせ登場人物が多くかつ外国人名ゆえ、のらりくらりで取り組むと曖昧な記憶しか残らないからだ。
(レジナルド・ジョンストン「紫禁城の黄昏」では時間を掛けすぎて結局三回読み直した)

朝起きて、つぶやく。

カガノーヴィチ、セルゴ・オルジョニキゼ、エジョフ―

職場で休憩中、ふと浮かぶ。

ミコヤン、ヤゴダ、ヴォロシーロフ―

帰路の電車で、脳裏を過ぎる。

ラコバ、ベリヤ、フルシチョフ―

誇張でもなんでもなく、ちょっとした瞬間に名前が浮かぶ。
個人的にちょうど胃腸炎を患っていたのもあるが、とても重苦しい期間だった。

ヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ―
通名・スターリンと共産党高級幹部の面々が本書の主人公だ。

上巻では、工業化推進のため農業従事者を徹底弾圧して5カ年計画を達成する。
そして下巻でヒトラー率いるドイツとの独ソ戦が展開される。

スターリンの行った徹底弾圧とは何か。
それは即ち処刑である。抵抗勢力は殺すということだ。


レーニンの死後、継承者争いで競ったトロツキー。
彼に同調する集団をトロツキストと罵り排除した。
いつしか、スターリンの方針に逆らう人間は全てトロツキストと呼ばれ、処刑された。
トロツキストで危険だから殺す、そういう大義名分に利用するだけで、
実際にトロツキーを支持していたか否かは関係ない。邪魔者はすべて、トロツキストなのだ。

やがてその矛先は、身内にも及ぶ。

真の粛清が、始まった。

本書には実に多くの人物が登場する。
それだけスターリンを取り巻くメンバの入れ替えが激しいことを意味するのだが、
スターリン政権下の人事異動とは、イコール死である。

つまり、如何に成果を挙げた同志であっても、次の瞬間には粛清されるべき敵対者となる。
その繰り返しが、ソ連共産党の上位ピラミッドを形成する。


事実として、この時期にスターリンの周囲にいた人間で、生き長らえたのはごく僅か。
身内つまり親族ですら、彼は容赦しなかった。

共産党幹部には強大な権限が与えられ、為に彼らには取り巻き連中が数多くいる。
仮に幹部Aの部下が密告により逮捕された場合、Aは当然その釈放をスターリンに要請する。
Aはその要請が妥当なものであることを証明するために、別の幹部Bを告発する。
Aは以前からBを疎ましく思っており、これ幸いにとC、Dにも根回しして、Bを権力の座から落とす。そして部下を守る。

彼らの世界には、努力による昇進などない。
何をしてでも、結果としてのし上がる。ポストに就いたという結果だけが大事なのだ。

しかし、この党内粛清には限界がある。
それは、「理由がない」からだ。

長年来の同志を処刑するのに、どんな理由なら、他のメンバが納得するのか。
どういう罪状なら、大親友ですら批判せずにはいられない状況になるのか。

それが、自己批判だ。

容疑者自らが、自分の非を滔々と述べる。自白調書に自分でサインする。
自分で罪を認めている人間を、誰が「彼は無実だ」と庇えるだろう。

もちろん、この自白は強制によるものだ。
しかしスターリンをはじめ裁く側に立つ人間は、自白という結果だけを重視する。
被疑者が自分で罪を認めたというその一点で、我々は今日も間違えなかったと自己弁護するのだ。

その雰囲気が、重苦しい。
言いようのないプレッシャが、胸の奥底に蠢く。

本書は内容的には本当に面白く、だからこそ短期間で集中して読めたのであるが、その一方で非常に息苦しかった。
後半はヒトラー率いるドイツとの戦争へ話題がシフトし、党内粛清が影を潜めたので何とか持ち堪えた(笑)


さて、下巻はいよいよ本格的な独ソ戦である。

深呼吸、深呼吸、深呼吸。


最後までお読み頂きありがとうございました。
人気ブログランキングに参加しています。
よければポチッとお願いします♪
 アップアップアップアップアップ
人気ブログランキング にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー

Twitterは@kareinosoraです。
楽天版「華麗の空~本を楽しく読むブログ」は⇒コチラです。


スターリン秘録 (扶桑社文庫)
スターリン秘録 (扶桑社文庫)

ロシア革命―レーニンからスターリンへ、1917‐1929年 (岩波現代文庫)
ロシア革命―レーニンからスターリンへ、1917‐1929年 (岩波現代文庫)

ファーブル昆虫記(4)―参考文献など。

最終回は参考文献の紹介です。

ファーブル昆虫記 南仏・愛しき小宇宙 DVD-BOX
ファーブル昆虫記 南仏・愛しき小宇宙 DVD-BOX
◆⇒読むよりも映像でみるならコチラ♪実物を見たうえで昆虫記に取り組んだほうがイメージが沸きやすいかもしれませんね♪

ファーブルの写真集 昆虫
ファーブルの写真集 昆虫
◆⇒A4サイズの大型本です。昆虫記と併せて読むといい感じ。昆虫といっても、グロテスクな個体は登場しませんのでご安心を。

博物学の巨人 アンリ・ファーブル (集英社新書)
博物学の巨人 アンリ・ファーブル (集英社新書)
◆⇒集英社版昆虫記の訳者である奥本さんの著書。ファーブルの人となりを知りたい人向け。

ファーブル巡礼 (新潮選書)
ファーブル巡礼 (新潮選書)
◆⇒かつてファーブルの過ごした場所を巡礼するエッセイです。1976年初版です。それから35年、一体いまどれだけの自然が残っているのでしょうか。気になるところです。

クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)
クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)
◆⇒ちょっと異色ですが、クマムシという微生物の紹介です。昆虫ではありませんが、その生態が面白いのです。電子レンジでチンしても、冷凍庫で凍らせても、まったく平気な微生物。それがクマムシなのです。顕微鏡でみるとクマのような顔をしているのでクマムシ。その辺に生えている苔に生息していますので、すぐにゲットできますよ



最後までお読み頂きありがとうございました。
人気ブログランキング


Twitterは@kareinosoraです。
楽天版「華麗の空~本を楽しく読むブログ」は⇒コチラです。

ファーブル昆虫記(3)―本能は前向き。

完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻
完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻


第三回目は、本能の働きについて、本書から例を取って紹介しましょう。

帰巣本能について。
ファーブルは、を使ってこんな実験をしました。
1.いま、土地Aで巣作りをしている蜂がいる。
2.捕獲し印を付けた後、数十キロ離れた土地Bに連れて行き、放つ。
3.果たして戻って来るであろうか?
注)いま「蜂」と書いていますが、実際には具体的な虫名で記されています。("じがばち"、"ラングドックあなばち"等。)
 本稿では便宜上、「蜂」といいます。

遠方の地Bに着くと、方位を狂わせるために、虫かごを回転させます。
予め移動中の視界は遮っているため、視力に依る記憶はないと考えて良い。

さて、嗅覚や触覚の効かない、方角すら分からない土地に放たれた蜂。
彼らは帰って来るのでしょうか?

数日後、彼らは戻ってきました。
作り掛けで放置されたままの巣を当然のように探し当て、おのおの黙々と作業を続けています。

放たれた蜂すべてが帰還したわけではありません。おそらく途中で力尽きたのでしょう。
決して、選ばれた、特別の能力をもった蜂だけが戻ってきたのではない。
彼らの全ては、我々人間の科学では説明出来ない能力を備えている。
それが、本能の力である。


幾度もの、多岐にわたる実験結果から、ファーブルはそう結論付けました。

本能の任務遂行能力には恐るべきものがあります。

本能は、迷わない。

しかし、その正確無比さゆえに、滑稽な一面もある。
本能は、全体調整が出来ないのです。

ファーブルはこんな実験をしました。
1.いままさに地面に巣を作っている蜂がいる。
2.巣作りの時点で、巣に穴を空けてみる。ゴミを入れてみる。
3.蜂はどうする?【A】
4.巣作りが完了し、蜜を格納する段階で、再び巣に穴を空ける。
5.蜜は穴から漏れ出てしまい、一向に貯まらない。
6.さて、蜂はどうする?【B】

【A】―すぐさま対応する。
キレイ好きでしっかり者の蜂は、僅かのゴミも見逃しません。
成虫にとっては取るに足らない藁クズであっても、幼虫(蛆)にとっては脅威です。
そんな物を残して置くわけにはいかない。
また、穴が空いていれば瞬時に対応します。繕いも仕事の一環なのです。

こうして綺麗な巣が完成します。
次は、食料(蜜)調達の時です。

【B】―まったく無視。気にも留めない。
驚くべき事に、蜂は穴を塞ぎません。
蜜が漏れ出ているコトなどまるで意に介さず、黙々と蜜の採集、格納に励みます。
悲しい哉、蜜は貯まりません。

蜂にとって、穴を塞ぐのは造作も無いコト。一瞬で終わる作業です。
少しでも産まれてくる我が子を思う気持ちがあるのなら、穴は修繕すべきなのです。生命線なのです。

しかし、全く放置。

本能に従うまま一定量の蜜を運び終わると、卵を産む。
そして、次の巣作りに移ります。

新しい巣に穴を空けてみる。彼は瞬時に対応する。
巣が完成し、蜜を運ぶ。そこで藁クズを入れてみる。全く無視。

本能はシーケンシャル。

本能は、過去に戻ることが出来ないのです。
全てを、順序立てて進めることしか出来ないのです。

巣作りは、次の作業に移った瞬間から、過去になるのです。
本能にとっては、作り終えた巣に穴が空く、ゴミが入るなどありえないのです。
それほど完璧に仕上げるよう、生物を突き動かしているのです。

人間は、物事を分割して認識できます(それを洗練するとオブジェクト指向になります)。

巣を作ること、蜜を格納すること。
全体が上手くいくように、行きつ戻りつ調整しながら作業を完成させます。

本能に従う生物は、それが出来ない。
その違いは、判断力(理性)です。

判断力とは何か?

それは人間にだって定義のしようがない曖昧な力。

本能は、曖昧を許しません。

曖昧さを許容しないからこそ、正確無比。

理性からみたら、彼は不器用なんです。

ちょっと本能が愛らしくみえませんか?ラブラブ


最後までお読み頂きありがとうございました。
人気ブログランキング ネコネコネコネコネコ

ファーブル昆虫記(2)―正確な本能、ゆらぎの理性。

完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻
完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻


本能の領域は我々のあらゆる学説が見逃している法則によって支配されているのだ。

                            ― J.H.FABRE


ジャン・アンリ・ファーブルは、言わずと知れたフランスの昆虫学者です。
昆虫の生態をつぶさに観察し、その卓抜した洞察力で、数多くの個体の習性を見出しました。

私は、ファーブルの歴史的偉業は本能の正確無比さを確信したことだと思います。

ファーブルは、行動には全て意味があると考えました。

昆虫の一つ一つの行動に対し、細部にわたってなぜ?ナゼ?何故?と常に自問自答します。

そして、次の結論に達します。

彼らの行動を律しているもの、それは情緒的理性の入り込む余地のない本能である。

ファーブル昆虫記を読むと、「自然って凄いな」と素朴に感じます。
さて次回は、本能について、具体的事例で解説します。


最後までお読み頂きありがとうございました。
Twitterは@kareinosoraです。
楽天版「華麗の空~本を楽しく読むブログ」は⇒コチラです。
人気ブログランキング ネコネコネコネコネコ

ファーブル昆虫記(1)―本能からの脱却、考える葦へ。

今回は、大好きな「ファーブル昆虫記」を紹介したい。少し長くなるので、全4回でお届けしますペンギン

はじめに。
私の所蔵は岩波文庫版全10巻である。
しかし最近はカラー写真と詳細な訳者解説による昆虫記が刊行されている。
集英社が創業80周年の記念事業として企画した「完訳ファーブル昆虫記」だ。

「百万言の言葉より一枚の写真」というように、写真は馴染みのない事象の理解を助け、かつ興味を惹き立てる効果がある。ゆえに、「ファーブル昆虫記」に興味を持った方にはぜひ集英社版をオススメする。

完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻
完訳ファーブル昆虫記 第1期セット 全10巻  ⇒集英社の紹介ページはコチラ

また、高画質な画像で楽しませてくれる南仏昆虫記もオススメキラキラ (但し読み込みが相当に重いので注意。。)

さて。
昆虫記と聞くと、虫が嫌いな人には一生関わりたくない本ベスト5と思うかもしれないが、一度読むと、ぐいぐい惹きこまれる。私は、ファーブルの本能についての考察に魅了された。

曰く、「本能は、正確無比である」

昆虫は、すべて本能に従う。誰からも教わることなく、獲物を捕食し、時期が来れば交尾し、巣を作る。
そこには一点の迷いもない。

一方で我々人間は、その本能から最も遠い位置にいる。
理性と知性で自らを客観視し、己の存在理由を考え、迷う。

パスカルは、人間は考える葦であると言った。

この言葉がどういう文脈で語られたのか、以下に引用したい。
ファーブルとパスカルの対比を感じて頂ければ幸いである。

人間は一つの葦、自然のうち最もか弱きものにすぎない。

だが、それは考える葦である。

それをおしつぶすためには、全宇宙が身ごしらえするを要しない。

一つの蒸気、一つの水滴もそれを殺すに足りる。

しかしながら、宇宙が彼をおしつぶすような際にも、

人間は彼を殺すところのものよりもなおはるかに高貴であるだろう。

なぜなら、彼は自分が死ぬること、

そして宇宙の彼にまさってすぐれていることを知っており、

宇宙はそれについては何も知らぬからである。


                     ―パスカル




最後までお読み頂きありがとうございました。
人気ブログランキングに参加中です♪よければポチッとお願いします♪
人気ブログランキング

Twitterは@kareinosoraです。
楽天版「華麗の空~本を楽しく読むブログ」は⇒コチラです。