追う立場から追われる立場になった国の困難さの予測は容易であった。日本が“世界の工場”の座を揺るぎないものにした30年前、『文明が衰亡するとき』(新潮社)で政治学者の高坂正堯氏(故人)はこう記した。 「ヴェネチア人は自分の商品への誇りからイギリス商品やオランダ商品の売れ行きを単に低価格で説明し、それ以外に理由があるのではないかを考えてみようとしなかったのである。彼らがそのことに気づいたのはほぼ30年後である」。 耳の痛い産業人が少なくないだろう。造船も鉄も半導体も家電も、過去の成功体験が鮮やかであるほど変化を嫌い、現実から目を背ける。浮沈を繰り返しながら世界トップから転落した産業は似た経験を持つ。