Co.山田うん ダンス公演 モナカ | カラサワの演劇ブログ

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Co.山田うん 2018 3都市ツアー東京公演『モナカ』

 

司会者「2018年最初の観劇評はダンス公演です。平成26年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した振付師の山田うんのカンパニーが、多摩美術大学教授の現代音楽家、ヲノサトルと組んで送るダイナミックな舞踊で、2015年に公演されたものの再演となります。畳敷きにして40畳はあるだろうと思えるステージを、16名のダンサーたちが走り回り転げ回り、モダンダンス的かと思うと、クラシック・バレエや民族舞踊を思わせる場面もあって、バラエティに富んでいた群舞でした」

 

芸術ファン「ヲノサトルの音楽は、現代音楽なのだけれども、どこかに土俗性を残した東南アジア的な響きをもっている。それに、身体パフォーマンスの原点を探るような山田の集団舞踊が加わって、どこか生命の原点を探るような深みのある舞踊になっていた感があります。初演のときの感想をネットで拾うと、“動物か昆虫の動きのようなイメージ”という感想が見られますが、これはその“生物の動きの原点”を探る方向性と無縁ではないでしょう」

 

深読み好き「『モナカ』というタイトルに、初演時は『舞踊奇想曲』という角書きがついていたが、今回は取れている。これはモナカ(お菓子の最中だ)というタイトルの意味、つまり人間というもの(あんこ)をダンスという形式(皮)で包んだ、という比喩を強調させたかったのではないか」

 

一般人「16人のダンサーさんの動きが一見バラバラのようで、ふっ、という瞬間にひとつに合わさる、そこはゾクッとしました。見事ですね。ただ、やはり素人の感想として言わせてもらうと、“で?”になっちゃうんだよねえ。私はクラシック・バレエみたいに、ちゃんとテーマがあって、それをダンスという動きで表現してくれている踊りの方が理解できるわ、15分だったら感動できるけど、1時間見せられると、“もういいわ”になってしまう」

 

芸大生「それが無理のないところかもしれない。音楽にしろダンスにしろ、あるいは絵画にしろ、クラシックな作品というのは、そこで今、何が起こっているか、作者、表現者が何を伝えようとしているか、を観客に“説明”することで成り立っている。ところが現代芸術というものは、基本に、そういう“説明”からの解放という考え方がある。その説明づけと理解は、享受者である観客自身が自分の感受性において行わないといけないんだ。そして、その理解は、享受者ひとりひとりの頭の中で異なったものとなり、共通するのは感情の振れ、という一事なんだな。だから、現代芸術というのは常に考えながら鑑賞しないといけないわけで、ここが“めんどくさい”ところでもあるんだねえ」

 

音楽ファン「前に現代音楽作品ばかり集めたコンサートに行ったんだけど、そこのプログラムに主宰者の“現代音楽ばかりでは難しいのではないかという懸念もあった”という言葉があって、ああ、専門家もやっぱり難しいと思っているのか、ならわれわれが難しいというのは別に恥でもないんだな、と安心したことがあります」

 

バレエファン「逆のエピソードだが、僕の知り合いの母親が昔モダンダンスをやっていて、表現のテストで“憎悪”という題が出たという。それでトップを取って先生に褒められた生徒の演技が、ゆっくりと大股で歩いて、両腕を体の前でゆらゆら揺らす、というものだったそうだ。先生に“独自の表現が素晴らしい、あなたには「憎悪」がそのように感じられるのですね”と言われてその生徒は顔を赤くして、“えっ、「憎悪」だったんですか、わたしはてっきり「象」だと思って……”と言ったというんだな。表現者と享受者の間の理解関係なんてのはまず、そんなものだと思った方がいい」

 

現代芸術ファン「いや、だからこそ現代芸術は面白いんです。作者の思ってもいなかった理解を観客側がする可能性がある。そこにハプニング性が生ずるんです。この『モナカ』だって、どのように観客に受け入れられるかわからない。幾とおりもの解釈が可能だ」

 

舞台史家「実はこういうモダン・ダンスというのは欧米においてはすでにその歴史的役割を終えた、という位置づけをしている人が多いんだな。1980年代あたりがその終焉時とされている。ところが日本においては、戦前からモダンダンスというものが石井漠などによってバレエよりも広く普及した歴史を持ち、いまなおそれが主流になっている。と、いうことは今や日本の現代舞踊が世界のトップなんだ。この山田うんのダンスが世界的評価を受けるようになってきているのも、故無しとはしないな」

 

お上品「しかし、“CO.“というのは“カンパニー”と読むのかと思っていたら、場内放送で“コ”と読んでました。“コ・山田うん”と発音するということは、繰り返して読むと……ちょっと趣味が悪いんじゃありませんか」

 

深読み好き「案外、いろいろ小難しいことを言って芸術家ぶろうとする連中をバカにしているのかもしれません、その名前からして。“見て面白いと感じればいいんです”というメッセージなのかもね」

 

 

演劇ファン「舞踊は趣味の範疇外だと思ってましたけど、舞踊も演劇も舞台上の“絵面”のインパクトが何より大事、ということをつくづく感じさせられて、非常に参考になった鑑賞でした。意味はやっぱりよくわからなかったけど」