約束の免疫【3】 | 虹色金魚熱中症

虹色金魚熱中症

虹色金魚の管理人カラムが詩とお話をおいています。

拙いコトバたちですが読んでいただければ幸いです。

 

約束の免疫【3】

 

 

 夢を見ていた。

 随分と昔の夢だと思う。幼い私はお気に入りの赤いプリーツのスカートをはいていて、同じ色の靴を履いていた。その靴もお気に入りだったのだろう。見下ろしている私は、自分の顔など見えはしないのに頬が緩んでいるのが分かった。

 
 呼ばれた気がして顔を上げると、見たことの無い子供が私に手を振っていた。そんな知らない子に私は喜んで歩み寄る。弾む足取りで柔らかな地面を蹴ると、真新しい赤い靴がぴかりと光った。
 
 「見て、見て! 新しい靴」
 
 興奮をあらわに無邪気にはしゃぐ私は嬉しそうにぴょんと跳ねた。夢だからか、冷静な私はそんな自分を不思議に見ていた。
 
 (子供だから? 私ってこんな子供だった?)
 
 子供の私はくるりと回った。赤いスカートが広がってまるで花が咲くようだ。そんな私をその子は黙って眺めていた。その顔は笑っている。私と同じように唇で弧を描いて笑っている。
 
 見覚え無いはずのその子を何故か私は知っていると思った。夢だからだろうか。それともその子は遠い昔、本当に友達だったのだろうか。幼い私の内側からその子を見ていた。
 
 何故か音は聞こえなかった。時々、私はこんな夢を見る。無声映画のような夢。慣れているというのも変だけど、私は自然とその子の唇をよんでいた。
 
 『よかったね』
 
 小さな、春の花びらのような唇がそう模っていた。
 
 「うん! うん!」
 
 夢の世界で私の声だけが形となる。文字となって耳に注がれ、幼い声として認識する。声は足取りと同じように弾んでいた。
 
 「言ったとおりだった! ママがね、いい子ねって。だからね、新しい靴を買ってくれたの!」
 
 嬉しい、楽しい。そんな言葉で体中がふわふわしている。小さな体はその気持ちでぱんぱんで、風船みたいに飛べそうに軽い。
 
 (私、こんな子だったんだ)
 
 よく思い出せない。小学校低学年くらいの私。思い出そうとしても、この幼い私が過去の私であるかなんて分からなかった。いつの間にか大人になったようで、私の記憶は幼い自分とパズルのピースみたいには、かっちり合わさらない。でも、そんなものなのかもしれない。それとも私が勝手に作り上げた、ただの幻かもしれない。
 
 (どっちでもいいよ)
 
 何でこんな夢を見ているのかが分からなかった。ふと友人が持っていた夢占いの本を思い出す。友人は 「夢には意味がある」 と言った。何かを象徴していたりとか。
 
 (じゃあ、この夢の意味って何?)
 
 考えても分からず、私は夢に深く深く落ちていくのだった。

 
 

■■■Copyright (C) 2011 カラム All Rights Reserved.■■■


にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

上のボタンをポチポチっとやってもらえると、とってもうれしいです☆

 

 

【色彩屋 鄭篤 TOPへ】

【ちょっと大きなお話 INDEXへ】