せめぎ合いのないセメダイン的自己言及 | カラカンのブログ

カラカンのブログ

カラカンのうんちです。
毎日のこととかいろいろ。

NHKで放送された『下町ボブスレー』を観ました。全3回というすごくいい見やすさ。近年よくある初回・最終話2時間SPとか本当にめんどくさいからやめてほしいものである。視聴率の問題は今も騒がれているが、これからはとにかくHDDに録画時代なのだから、番組はその番組に適した長さで放送すればいいのにな、と思うわけです。15分バラエティとかをゴールデンで放送して、45分ドラマにすればいいんだよって提言です。「下町ボブスレー」とは関係ないけど。

ということで、「下町ボブスレー」の話にもどるかに見えて、本当に気になるのはそういう話ではないのです。見ていたら昨今のドラマではお馴染み「ドラマじゃないんだから(云々)」というセリフがありました。「自己言及」というわけです。はじめて僕が自己言及に触れた思い出というとそれは、自己言及することで生まれる笑い、であり、コメディ作品によってでした。なんで「自己言及」することで笑いになるかというと、自己言及することが本来タブーだからですよね。ギャグマンガ的現実は当然ありえないわけで、それに対して「ギャグマンガじゃねえか!」というのはタブーです。だから「あー、それ言っちゃったよw」的笑いが生まれる、というわけです。(全部がそれってわけではないのかもしれないけれど。)けれど、昨今の自己言及の用いられ方は違うのです。新しい自己言及の効用は一体何かというと、逆にそうしたフィクション世界を強固させる働きがあるのです。

フィクション世界の強固っていってもなにがなんだかですので、用例をあげてみましょう。
1)「恋愛マンガだったらさ、ここで、キス、とかしてるんだよね・・・?」
→まあこのあと女の子が「だったら、してよ」的展開で、自分たちの物語は少女漫画世界と同等ですよ、というアピールをしてきます。
2)「こういうときドラマなら、もっと頑張れるんだけどな。」
→こっちの場合ネガティブ系で、俺たちの物語はドラマじゃないからうまくいかねえな、と差別化を図ることで強固さを増していきます。
3)「おまえもしかしまだ 自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」(幽遊白書より。)
→この記事は基本的に自己言及批判なのだけど、これはいい例。これはバトル漫画という“死なない肉体”に対しての皮肉(?)。いいですね。これ読んだとき、まじで死ぬんじゃ、って誰もがピリピリしたはず。ついでに、ジャンプでいうとこち亀の両さんとドラゴンボールのコラボも自己言及がうまくいっていた、と記憶している。

とまあ幾つかあげてみたわけですが、自己言及っていうのはうまくいく場合といかない場合がこうして見るとはっきり分かれますね。確か、アイドルグループのBiSも自己言及的アイドルだったような気もします。うまく行くか行かないかは、自己言及することで生まれる新しいレベルを作品全体で統一できるとか、ということだと思いますが、(例えば、「ドラマでは~」とドラマ中いっていても実際になんも夢もなくみじめったらしい話だったらアリだと思う)、それは「自己言及すること」それ自体が一つの目的だから当然だと思います。しかし、世に溢れかえっている自己言及にはそうでないもの、つまり一応やってる自己言及があるのです。

この一応やってる自己言及は、さっき挙げた「フィクション世界の強固」のためにやっているわけです。ああ悲しきかな、裏を返せば一応でも自己言及しなければもはや「フィクション世界」を強固に保てない時代なのです。つまり、結局こんなのドラマじゃねぇか、という批判を先回りして「ドラマだったら~」といちいち口に出さなくてはいけないのです。僕自身、もし何か話をつくるとしたらそうした自己言及システムを使ってしまいそうではあります。しかしこれからは、あえて使わない、という選択肢も考慮し、それこそ「あえてやらなかったのでは?」という疑問を先回りして持ってドラマを見なければ、ドラマを取りまく想像力が死ぬのです。あくまで余談だけれど、この非自己言及の傑作に今は亡き今敏さんの『東京ゴッドファーザーズ』を僕はあげます。

ドラマの生か死か。ネット時代以降、常に話題になるこの問題に、やはり今もまた直面しているのです。

※自己言及を歴史的に調べたことがないので、ギャグから生まれ今に至るかは不明。がしかし、個人的体感としてこうしたおざなりな自己言及が頻発しているのは近年だと思っている。

※「下町ボブスレー」自体は面白かったです。ただ、実際には下町ボブスレーは改良点が多い、という理由でソチリンピックでは日本連盟に採用されてないので、そこを省く、とのはドラマとしてみてもどうかな、と。次の冬季オリンピックを目指す!のであれば、そこまで含めても良かったのではないか、と思う。まぁ3時間分のドラマなのでそこまで盛り込めない、というのもあるかと思うが。

おわり。