最初、ポスターなどでクローズアップされている神木隆之介が桐島なのかと思っていたが違っていたことが意外だった。

次に、桐島にはなんらかの事情があるとはいえ出演者の中に真相を知っている者がいるのだろうと思っていたがそれも違っていた。

真相を知っているのは、おそらく大人だけ。
何度かくりかえされる職員室でバレー部マネージャーの号泣シーンから、教師の間ではもう広まっていることが窺えるが、その真相は最後まで明かされない。

ここは私の想像でしかないけれど、
例えば
親が人を殺したり、社会的地位が失墜するようなことを起こした容疑をかけられ、捜査の渦中にいるとか。
親の経営していた大きな会社が大きな負債を生じつつ倒産したとか。
もしくは、桐島が実は夜な夜なネットでハッカーのようなことをしており、それが発覚して拘留されているとか。実は交際している彼女以外の女子生徒と関係があり妊娠させてしまっているとか。・・・想像の域を超えないが・・・

どうやら桐島は、不可抗力な事情によって、その栄光たる高校生活にピリオドを打たなければならなくなってしまったようだ。

桐島はどうやら成績も良くルックスも良く、学校の中ではヒーロー的な存在。
モデルのように可愛いオシャレな彼女と交際している。
バレー部のなかで選手としても抜群で、桐島がいたからこそ部は勝ち続けていられた様子。来週の試合になくてはならない存在。
桐島が部活を終えるまで一緒にゼミへ向かうのを待っていてくれる男友達もたくさんいる。

なのに、親友にも彼女にも何も告げずにいきなり学校へ来なくなってしまった。
なんの相談もなく連絡もつかない桐島を、仲間は心配するけれどどうすることもできず鬱々とするしかない。桐島が来なくなって、歯車が狂ってしまった人たちがクローズアップされている。


片や、神木隆之介演じる映画部は、桐島が学校に来ていないことも別に問題にしていない。
そもそも映画部だけでなく、桐島と関わらない生徒のほうが学校には多い。
タイトルである「桐島、部活やめるってよ」は、誰のセリフでもない。

映画部は、全校生徒から嘲笑されるようなオタクの集団だ。
剣道部の部室の端の狭い部屋で制作活動をしているが、高校生らしいシナリオを先生が押し付けてくることにも逆らえずテンションも低い。

桐島のこととはなんら関係なく、映画部は自分たちのやりたいことをすることにした。オタクな者たちも、目的がハッキリしたことでやる気が出てきた。

「自分のやりたいこと」
「自分の進路」

それが、この映画の影のテーマのようにも思う。
東出昌大演じる、桐島の親友の右ポケットには白紙の進路調査票が入っている。
桐島が登校しなくなった金曜日、この進路調査票は配られ、翌週の水曜日が提出日。映画は火曜日までの様子を見せてくれるが、水曜日、この進路調査票に何を記入したのかを見せてはくれない。

能力がなくても、やりたいことのある人間(映画部、野球部キャプテン、吹奏楽部部長)と、
能力があってもやりたいことがハッキリしていない人間(桐島の親友)、
桐島が失踪したことで、やりたいことが見えなくなってしまった人間(バレー部、桐島の彼女)の、それぞれの進路とは。

今回は桐島がいなくなったことだったけれど、本当は、こういう予期せぬきっかけは毎日起きているのだ。気付かないだけで。

ルックスが良くても頭が良くてもスポーツが出来ても恋が実っても、人生うまくいくとは限らないし、その逆だから人生うまくいかないとも限らない。

私たちは、生まれたときすでに平等ではない。
でも、ラッキーに進んできた人も、アンラッキーに進んできた人も、自分に降り注いだきっかけを取捨選択しながら進路を決めていくしかない。

意気揚々と映画の撮影をする映画部部長(神木隆之介)に、桐島の親友(東出昌大)が
「将来の夢は映画監督ですか?」
と尋ねたとき、映画部部長はハッキリと
「映画監督は、無理」
と答えた。
なんだろうか、このキッパリとした答えは。

そのあと、映画部部長は桐島の親友をかっこいいねと褒めたのに、桐島の親友は涙をこらえて去っていった。
ラストシーン、桐島の親友は学校が見下ろせる高台で、自分は成績のためなのか、能力があるのに参加していない野球部が煌々と照らされた照明のなかで一生懸命練習しているのを眺めながら、再度桐島に電話を掛けてみる。
しかし応答は無い。

桐島のいなくなった寂しさ
自分の不甲斐ない毎日
決められない進路

夢中になれるものがみつからない高校生男子の、やり場のない虚しさがとてもよく表現されていると思う。


この映画では、表立って出てくる高校生ひとりひとりにそれぞれの事情があって、気持ちの揺れがあって、それが行動に現れている。
全員が主役に見えた。

私にはとても感慨深い映画だった。

 

映画を作るって、堪らない面白さがあるだろうね、私も作ってみたいな。










※音楽の評価を☆4つにしたのは、最後の主題歌が余計だったから。
野球の練習音にスタッフロールを浮かばせるくらいで全然かまわなかったのに。

この、予告編ほどは面白くはない。