昔々ある海辺におじいさんが一人で住んでいました。名前は、太郎です。

 

太郎『フ~。年を取っても生きてる以上、腹は減る。仕方がない。魚を取りに行くか。』

釣り竿等を持ち『よいしょ』と掛け声をかけて海岸に歩き出した。

太郎『毎日、毎日、魚ばかりだ。たまには他の物が食いたいの~。ん!あれは!』

波打ち際に箱が打ち上げられていた。誰にも取られないように走り出した。

太郎『ハアハア…。食い物か。それとも紐が結んであるからお金か。ハアハア。』

太郎は箱の紐を解いて蓋を開けた。その途端

太郎『うわ~。』煙が出てきて何も見えなくなった。

太郎『ゴホッゴホッ。なんだ、狸か狐のいたずらか。』

???『あ~。どうして蓋を開けたんですか。それは私たちの玉手箱でしたのに!』

太郎は声のする方を向いた。そこには大きなウミガメがいた。

ウミガメ『煙を浴びたんですね。自分の姿を見てください、といっても見れないか。自分の手を見てください。若返ったでしょ。』

太郎は、若返った自分の手を見てそれから顔を触った。

ウミガメ『大変なことをしたんですよ。今から一緒に来てください。』

太郎『何と!煙のお陰で亀の言葉が分かるようになった!』

ウミガメ『え~!そこに驚く?』

太郎『当たり前じゃ。いや若くなったから“当たり前だ”と言おう。亀の言葉が分かるんだぞ。もしかしたら魚の言葉も分かるのか?』

ウミガメ『亀は万年ですから、人の言葉を話せるものがいてもおかしくないですよ。』

太郎『そうか。なるほど。猫が長生きすると化け猫になるのと同じもんか。』

ウミガメ【解釈がなんだか屈辱的だけどまあいい】

太郎『わし…じゃなくて、俺は忙しいんだ。じゃあな。』とその場を去ろうとした。

ウミガメ『待ってください。どうしてこの流れで行こうとするんですか。』

太郎『若返ったんだ。やりたいことがいっぱいある。まずは腹ごしらえだよ。俺は腹が減ってるんだ。』

ウミガメ『勝手に開けたのに…。』

太郎『拾ったものは俺の物、俺が落としたものは俺の物だ。』

ウミガメ『なんなんですか。その名言(お前の物は俺の物、俺の物は俺の物)のパクリのような言い方は。とにかく、一緒に来てください。そうだ。お腹が空いているならご馳走しますよ。』

太郎『!本当か。肉か。肉か。』

ウミガメ『えーと、海なので魚料理ですね。』

太郎『まあいいか。亀ゼリーもあるのか?』

ウミガメ『………ありません。とにかく背中に乗ってください。私の背中にいれば海の中でも大丈夫ですから。』

太郎『海の中?呼吸は?亀の背中で呼吸が大丈夫と言われても納得いかん。原理を教えてくれ。もしかして俺を溺れさせるつもりか?』

ウミガメ【えー、メンドくさ!】『えーと、企業秘密です。それに溺れさせるメリットはないですよね。』

太郎『ほお~。俺は単にストーリー的な問題だと思ってるけどな。』

ウミガメ【ちっ!】と心の中で舌打ちをした。

ウミガメ『さあ、乗って、グエッ』

太郎『乗ったぞ。これでいいか?』

ウミガメ『乗るなら乗ると一声かけてくださいよ。まったく…。釣り竿も持っていくんですか?まあいいけど。』

太郎『言っただろ。俺が落としたものは俺の物。だけどな、無くなったら探しようがないだろ。ほら腹減ってるんだ、サッサと行くぞ。ほれ、ハイシドウドウ、ハイドウドウ。』

ウミガメ『それは違う太郎さんのお歌でしょ。行きますよ。』

太郎『怪しいなあ。俺は太郎と名乗った覚えはないのに違う太郎とは…はて、その答えは如何に?』

ウミガメ【本当に、メンドくさ!】『登場人物は大体、太郎ってつくじゃないですか。もう行きますよ。』そういうと沖に出てから海底に潜り出した。

太郎『おお~!すごい景色だ。本当に息ができるぞ。お前がいれば便利だな。』

ウミガメ『フフ―ン。』褒められてご機嫌だった。

 

そして竜宮。

ウミガメ『着きましたよ。ここは竜宮です。奥には乙姫様が居られますからね。』

太郎『姫かあ。綺麗なのか。独身ならいいなあ。俺も独身だしな。』

ウミガメ『………こっちです。』右手を上げて何か言おうとしたけど呆れて何も言えなかった。

ウミガメ『乙姫様、残念ながら玉手箱はこちらの人間に既に開けられ、若返った後でした。』

乙姫『………。』

太郎【むっちゃ美人だ】『初めまして、私は太郎と申します。そこのウミガメ様に連れられてここまで来ました。よろしくお願いします。』

ウミガメ【…申します?ウミガメ様?】

乙姫『………。』

ウミガメ『乙姫様?』

乙姫『…タイプ…フォーリンラブだわ。』と呟いた。

ウミガメ『えっ!』

乙姫『何でもありません。ようこそ、私たちの不手際で玉手箱が海に出てしまいあなたには迷惑をお掛けしてしまいましたね。ですが若返ったのも運命でしょう。』

ウミガメ『えっ?乙姫様?』

乙姫『折角来ていただいたのですから、宴を開きますから楽しんでください。さあ、準備をお願いしますね。』

『はーい』と様々な海の生き物が返事をした。

 

太郎『美味い。どれもとても美味い。パクパク、ムシャムシャ。』

乙姫『慌てなくても、誰も取りませんよ。共食いになりますからね。』

太郎『いやー。タイやヒラメの踊りを見ながらタイやヒラメの刺身を食べるとは、なんとも贅沢ですね。』

乙姫『お気に召して良かったですわ。』

ウミガメ【もう二人とも好きにしてくれ】

乙姫『いつまでもいてもいいですよ。毎日、宴を開きますからね。』

太郎『嬉しいですね。』

本当に毎日毎日宴で大満足な太郎だった。

だが…。

ある日

乙姫『太郎様は独身なのですね。私もなんですよ。あのー今夜は二人っきりで色々話しませんか?』

太郎『二人っきりですか。………今日はゆっくり寝たいので今度お誘いください。』

乙姫『そうですか。明日は?』

太郎『そういう話は、明日になってからにしませんか?』

乙姫『ごめんなさい。はしたないことでしたわ。』

太郎『こちらこそごめんなさい。』

 

その夜

太郎『ウミガメ~!ウミガメ~!どこだ!』

ウミガメ『何ですか、うるさいですね。もう夜中ですよ。』

太郎『話がある。』

ウミガメ『何ですか。』

太郎『帰りたい。』

ウミガメ『えっ、もういいんですか?』

太郎『もういい。だから帰りたい。』

ウミガメ『乙姫様はあなたのことを気に入っていますよ。』

太郎『無理だ。俺も綺麗でいいなあと思ったけど、俺は漁師、あっちは姫。合わん。ずーっと一緒だと息が詰まる。遊びで手を出すならいいが、きっともう逃げられなくなる。だからそうなる前に帰りたい。』

ウミガメ『…分かりました。あなたが王様になるかもしれないと思い、寒気がしていたのでお互いの考えが同じ方向なので協力しましょう。』

太郎『で、どうしたら逃げれる?』

ウミガメ『私に考えがあります。』

 

翌日

ウミガメ『乙姫様、太郎様は一旦、陸に戻りたいとおっしゃっています。』

乙姫『なぜ?どうして?はっ!もしや陸に好きな人でも…。』

ウミガメ『違います。突然ここに来たので友や知り合いに別れを言い忘れたので、それを言ったら戻ってくるそうです。』

太郎『もう戻らないぞ。』とウミガメに囁いた。

ウミガメ『話を合わせてください。とにかくここから出る許可が必要なんです。』と囁き返した。

乙姫『知り合い…女の知り合い…想い人…はあ、はあ。』

ウミガメ『乙姫様?』

乙姫【そうだわ】『ごめんなさい。分かりました。許可しましょう。太郎様、今一度顔を見せてください。』

太郎は、乙姫を見た。すると眩い光が乙姫の背後から発せられたようだった。その逆光で乙姫の顔は分からなかった。

太郎『眩し!』

乙姫『ごめんなさい。少し演出を入れてみました。』と笑顔で答えた。

ウミガメ『乙姫様?』

逆光の際に横から見ていたウミガメはその時の乙姫の悪鬼の笑顔を見逃さなかった。

ウミガメ『………?』

乙姫『さあ、もう行けるようになりました。早く戻ってきてくださいね。』そういって送り出したのだった。

 

海辺

太郎『砂浜だ。やっぱりいいなあ。じゃあな。もう戻らないから適当に言っておいてくれ。そうだな。好きな人ができたとか。』

ウミガメ『そんな理由はダメでしょ。こっちで考えますよ。私ももう会う必要がないと思うとウキウキですよ。』

太郎は、ウミガメと別れて自分の家に向かった。

太郎『あれ?』家が見えるところまで来て立ち止まった。家が違う。そう言えば周りの景色も若干違うような気がする。

村人『よお、権兵衛。どうした?って人違いか。よく見ると違うが雰囲気が似てるなあ。』

太郎『権兵衛?俺とその権兵衛が似てるのか。』

村人『似てないけど、雰囲気が似てるんだよなあ、なんとなく、うーん。』

太郎『その権兵衛は、あの家に住んでるのか?』

村人『なんだ、知り合いなのか。親戚かあ。』

太郎『すまないが、今何年だ?』

村人『はあ?その若さでボケたのか。今は〇〇年だ。』

太郎『………。』【約300年前だ、ここは】

太郎『くそっ!あの姫が~!逆光は(時間の)逆行だったのか。知り合いがいなければ戻ると思ったのか。そうはいかん。意地でも戻らんぞ。』

太郎『親戚ではない。だけど、ここの景色が気に入ったからここに住みたいんだがどこか住める場所はあるかなあ。』

村人『初対面の者に住む場所を提供できるほど俺はお人好しじゃないぞ。』

太郎『…そうだ。俺はこういう技術を知ってるんだが。』と300年後の技術を説明した。

村人『!お前、すごいなあ。よし、そうだな。権兵衛の家から少し行った先の岬のあたりなら好きに住んでいいぞ。他の村人にも言っとくよ。』

 

そして太郎は、ここに住み着いたのだった。

 

 

ウミガメ『もう一度一緒に来てくれないかな。』

太郎『もう戻らないと言ったろ。しつこいぞ。』

ウミガメ『乙姫様がどうしても連れて来いと言うから…。』

太郎『毎日、毎日来られても答えは“い・や・だ”。』

ウミガメ『でも…。』

太郎『しつこい。』【そうだ】

 

次の日もウミガメは説得に来たのだが、

子供たち『わあ、ウミガメだ。』

子供たちにイジメられるウミガメ。

ウミガメ『やめて。』

子供たち『しゃべるぞ。きもいなあ。』

ウミガメの視界に太郎が入った。

ウミガメ『あっ、太郎さ…グエッ』

太郎『もう来ないよな。』

ウミガメ『え?』

太郎『子供たちは無邪気だよな。手加減を知らんからな。これからは誘いに来るたびに子供たちにイジメられるかもしれないぞ。』

ウミガメ『それはどういう意味…グワッ』

子供たち『亀をイジメてお金が貰えるなんて太郎おじさんはいい人だなあ。』

ウミガメ『!』

太郎『もういいだろ。ほらお駄賃だ。』

子供たち『わーい、ありがとう。』

太郎『もう来ないよな!』

ウミガメ『き、来ません。』それを最後にウミガメがここに来ることは無かった。

 

そして太郎は、ご先祖様の権兵衛の近くに住んで知識を活かして村人と仲良く暮らしましたとさ。

権兵衛の裏の小島のような岬に住む太郎は、何時しか裏の島の太郎、裏島太郎、浦島太郎と呼ばれるようになりました。

 

おしまい。