前回の記事の続き。

 

今回からは重い内容のため

心に余裕のない方は

スルーしてください(^▽^;)

シリアス要素多め&エ■要素ないので

Blogに載せましたが、

元々支部の載せるつもりだったので

かなり長いです(笑)

 

 

 

 

 

 

 

それでは本題へ。

 

 

 

 

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森下教授シリーズ

闘病生活を支え合ってきた

妻・麗奈さん視点の妄想。

 

夫婦の馴れ初め編の

続き的なエピソードをお送りいたします。

 

 

 

今回は中編。

長男出産から2年が経っても、

幸せいっぱいの森下家。

しかし次男の出産を経て、

麗奈さんと長男との間に亀裂が…。

 

 

 

******************

 

 

オリキャラ妄想

「私と貴方の軌跡」中編

 

 

 

別居中の夫と長男の家にて。

 

「ケンちゃんから聞いたよ。

…俺の浮気を疑ったんだって?」

「もう。あの子ってば、

おしゃべりなんだから」

夫の浮気疑惑騒動の次に会った日、

顔を合わすなりその話題となった。

 

「ははははは!

俺が麗奈さんひと筋だって事、

麗奈さんが一番知ってるだろー?」

「…私は。賢吾くんが万が一

間違いを犯すとすれば

相手は賢一だと思ってるけど」

「いやいやいや!ナイナイナイ!」

抱き続けてきた懸念をそのまま伝えると、

夫は笑って一蹴する。

 

「息子相手に、“俺の息子”が

反応するワケねえから!

そもそも俺がケンちゃんに

下心があるんだったら、食う機会なんて

生まれたときから散々あったワケで」

「成長して、見る目が変わるって事も

あり得るじゃない。」

「いや!ないね。

どんなに愛していようと、

賢一のチ〇コやケツを見たところで、

俺の脳内じゃ

昔のミニウインナーと変わらねえし

ムラムラするかもっていう

発想自体起こらねえ、……あ。

ケンちゃんおかえり」

「――――エ!賢一!?」

 

ガチャリとドアが開き、

長男が顔を引きつらせながら

リビングはと入って来た。

私の方がリビングのドア側を向いて

喋っていたにもかかわらず、

夫はいち早く帰宅に気づいたようだ。

 

「お二人さん、話に花が咲いてたようで

何よりじゃねェか……」

「話を聞いてくれケンちゃん!

パパは潔白を訴えていただけで…」

「そのわりには、ノリノリで

オヤジギャグ言ってたじゃねえかよッ!

ミニウインナー食えなくなるじゃねえか、

この変態親父ッ!」

文句をぶちまけ、洗面所に

うがいをしに行ってしまった。

 

「…ごめんなさい。

私が余計な事を言ったから…」

「あー大丈夫。

あの反応は怒った反応じゃねえから」

「…そうなの?だって変態親父って…」

「アレはいつもの事だし」

「いつもいつも、そう呼ばれるような

言動をしてるワケ!?貴方は……」

 

(でも。これまでの溺愛っぷりは

紛う事なき親心だとわかって安心したわ)

すっかり呼ばれ慣れている夫に呆れつつ、

私も私で、息子を相手に

余計な心配をしたと反省した。

 

夫と長男の間に絆が芽生えるのも

無理はない。

夫婦で手を取り合い乗り越えてきた、

次男の闘病生活。

その間、次男以外の事に気が回らない

私のぶんまで、夫は絶えず

長男愛し続けたのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長男を出産後、母子ともに4泊入院したが。

夫は毎日欠かさず、会いに来てくれた。

 

「…眠れてる?麗奈さん」

「ええ。夜間は新生児室で

預かってくれるから楽してる」

「ンな事ねえよ。

産後で体調戻んねえなか、

ケンちゃんのお世話してンだから」

分娩室では長男に釘付けで

あれだけ挙動不審な様子だったのに、

病院へ来るといの一番に

私に優しい言葉を掛けてくれる。

 

「…“ケンちゃん”って事は。

名前、決めたの?」

「ああ!実はコイツの

顔を見た時点で即決してたんだ」

男の子の場合は夫に命名してもらうと

夫婦間で決めていたため、

今回は一任していた。

「――――なんて言うの?名前」

「賢一。」

「あら…。結局、賢一にしたのね」

出産前は、長男だから賢一と付けるのは

安直だと言っていたのに…。

 

しかし夫いわく、

理由があるのだという。

「賢一の“賢”は、俺の名前だろ?

んでもって“一”は、

一番大切な子っていう意味!」

「一番大切…。」

「麗奈さんが産んでくれた

可愛いコイツに、これでもか!ってくらい

愛情を注ぐって決めたんだ」

「賢吾くん……」

 

恋愛も結婚もしないと決めるほどに

子どもを愛せるのか不安だった夫が、

こんなにこの子の事を想ってくれて、

感動がこみ上げた。

不安だったけど、

子どもを産んで、本当によかった……。

 

「そうね。とても、いい名前だわ…!」

「じゃあ決まりだな。

明日市役所に、出生届出して来るよ」

 

 

 

 

それから、順調に退院の日を迎え。

退院日からひと月の育児休暇を

取得してくれたため、

私も回復と、長男のお世話に

集中する事が出来た。

(といっても、授乳以外は

全部賢吾くんがやってくれてるのだけど)

 

命名したときの宣言通り、

夫は長男をとても可愛がった。

たまにオンラインで仕事をするときには

ベビーベッドの隣に

自分の折り畳み式デスクを

移動させるほどだ。

 

「…おおっと!

どうしたんだい?ケンちゃーん♡

オムツ替えの時間かなー?」

愚図りだした長男に、普段の

ガラの悪さが嘘のように

にこにこと話しかける。

これまでの立ち居振る舞いを知るだけに

やや違和感はあったものの、

姉や妹から、旦那さんへのオムツ替えの

不満を聞いていたから、

中身が大でも小でも嫌な顔せず

取り替えてくれる事が有難い。

 

 

 

母乳の出具合がいく分足りない事もあり

夜間のみミルクを飲ませていたが、

夫が喜んで飲ませてくれるし、

夜中のオムツ交換や寝かしつけも

率先して動いてくれて。

おかげで私はぐっすりと眠る事が出来たし、

生後3ヶ月で私が職場復帰すると

夫は保育園のお迎えと、

帰宅後の家事育児を引き受けてくれた。

 

朝の出勤時刻がゆっくりな私は

長男の見送りや朝食、

夫婦の弁当作りを担当。

出社前に、予約運転で洗い終えている

洗濯物も干していたものの、

長男の世話に関わる時間は

夫のほうが長く…。

 

必然的にパパっ子になっていったが、

寂しく思うどころか、

この状況を幸いだと思っていた。

私の職場は年中無休で、

出社時刻が遅いぶん帰宅も遅い。

帰宅するまでの間寂しがって

夫の手を煩わせるよりも、断然いい。

父性があるのか不安そうだった夫も、

あの子が懐いて嬉しそうだし……。

 

 

 

そんな調子で2年が経ち。

2歳になる前から、長男は

どんどん言葉を吸収し

2歳半ばにはお喋りが上手になっていた。

年相応に舌足らずなところも愛くるしい。

 

大半が平日休みである私は、

長男が保育園に行っている間

長男の服や小物づくりに精を出した。

昼食後は長男の好きな

野菜入りドーナツを作り、

いつもの延長保育は利用せず

基本の降園時間に迎えに行く。

 

「うわあ…!どおなつだぁ…!!!」

帰宅した長男は、テーブル上の

おやつを見つけて目をキラキラ輝かせる。

「ままぁ!あっがとねー!」

「ふふふ。明日の朝ごはんも

ドーナツにしましょうか」

「うんっ!どおなつ、だいしゅきー!」

 

そしてこんな日の夕食は、

夫の好物を作るのも定番だ。

「ぱぱぁ!おかえりー」

「おーっ!ただいま、ケンちゃん」

玄関に駆け寄る長男を抱き上げると

この日もキャッキャッと喜ぶ。

 

「賢一…。きょう保育園で、

自己紹介も出来たらしいわよ」

「エ!そうなの?

パパも見せてほしいなァー」

夫のリクエストに応じるべく

長男に声を掛ける。

「…けんいちーっ。お名前は?」

「モイチタケンちゃんでしゅ!」

「…わァーーッ!

ケンちゃん、自分の名前が言えるんだなァ。

かっこいいぞーっ!」

「ケンちゃん、かっこいーのぉ」

夫が抱きあげて頬ずりするとき、

長男の笑顔がひと際輝く。

 

平均より小柄で小食ながらも、

運動能力も言葉の発達も並み以上。

でも何よりも、私はこの子の

太陽のように輝く笑顔が大好きだ。

長男は我が家の太陽のような存在で。

ソファでこの子を挟みながら

その日の出来事を夫婦で語らうのが、

この上なく幸せだった。

 

 

 

 

 

その状況が変わったのは、

身ごもった次男の

病気が発覚してからだった。

産後すぐに手術が必要だという

説明を受けたあと、

夫はすぐに退職願を職場に出した。

 

退職後は、フリーランスの

エコノミストになると言う。

幸い、私たちには長年の貯えもあり

夫婦それぞれが資産運用もしているから

金銭面に不安はなかった。

仕事も、人脈のある夫は

すぐに企業家の知人たちから声がかかり、

仕事には困らないだろうけど…。

 

「打ち合わせで出掛けるとき以外は

パソコンで仕事出来るようになりそうだ。

引継ぎ終わるまでに、長くて半年くらい

かかっちまうかもしれねえけど、

ケンちゃんの世話も含めて、

しっかりやっていくから」

「…いいの?賢吾くん」

15年ほど勤め続けた職を

あっさりと手放す夫に、申し訳なく思う。

私はというと、術後次男が安定したら

いまの職場に復帰する予定だ。

就職して20年務めた会社では

責任のあるポジションを任され

やりがいに溢れていて、

手放す事が出来なかった―――――。

 

「俺は、特にいまの仕事に執着ねえんだ。

経済の勉強なんて、俺のやる気次第で

どこでだって出来るからさァー」

「ごめんなさい。私だけ…」

「謝るトコじゃねえから!

俺の、経済を極めるっていう夢は

銀行勤めじゃなくても追いかけられる

ってだけの事だし。

麗奈さんも麗奈さんで、

自分のやりがいを手放す必要はねえ」

 

 

 

 

それでも、出産するまでは

まだ悠長に構えていたのだという事を、

出産直後に思い知る事となる。

生まれてきた次男の、

唇が紫色になった顔を見て

事の深刻さを察した。

 

「―――お母さん。

赤ちゃんはこのまま手術に入りますね!」

「はい……」

「よろしくお願いします!」

ろくに言葉が出ない私の代わりに、

夫がはきはきと返事をする。

 

私は処置を終えると

病室へ運ばれる。

「…麗奈さんお疲れ様!

健児の手術は必ず成功するから。

ゆっくり休むんだよ」

「賢吾くん……」

頭を優しく撫でられた事で、

ようやく感情が動き出し。

恐怖と不安で、涙がぽろぽろと零れた。

しまいにはしゃくり上げて

呼吸が上手く出来なくなったため、

安定剤を投与され、眠りに就いた……。

 

 

入院中、

帝王切開で痛む身体に鞭を打ち、

次男の保育器へと足を運ぶ。

 

妊娠中に発見出来てよかった。

手術が成功してよかった――――――。

 

周りはそう言うけれど、

私はそうは思えない。

五体満足で生まれる事のほうが、

比べ物にならないほど幸福なのだから…。

 

「ごめんなさい、健児。

どうか、生きて。お願い――――――」

涙ながらに祈り、

身体の限界を迎える前に

自分の病室へと戻る日々。

 

 

しかし次男よりも先に、

私の退院日が訪れてしまう。

「麗奈さんを家に送ったら、

今度は俺が健児に付き添うよ」

「よろしくね。賢吾くん…」

 

次男から離れる事が不安でたまらず

涙が溢れる。

「…ままぁ?いいこいいこ」

「ありがと…っ。賢一」

当時3歳だった長男だけど、

涙ぐむ私に少し戸惑いながら

頭を撫でてくれた。

「ごめんね。賢一。

お母さんしっかりしないとね…」

「麗奈さんはとにかく、自分の身体を休めなよ。

お義母さんも来てくれてるし、

賢一も楽しそうにやってたからさ」

 

この頃から、夫は長男を

ケンちゃんと呼ばなくなる。

後に本人から、兄弟平等に愛したいと

いう理由を聞くが。

 

 

 

小さな長男は、我が家の

目まぐるしい変化についていけなかった。

私たちを置いて病院へ泊まり込みに行く

夫を見送り、玄関ドアを閉めると。

 

「ぱぱあああああぁあああッ!

うわああァァァァンンン!!!」

長男は、火が点いたかのように

頭に響く声量で泣き叫ぶ。

 

「…賢一ごめんね。寂しいわよね…」

パパっ子だった長男の気持ちを汲んで

抱き締めようとしたけれど。

「ままじゃないいいっ!

ぱぱがいいのおおおっ!!

わあああああああんん!!!!」

 

 

(――――――何よ。

母親の私がいるのに、不満だっていうの)

差し伸べた手を強く払いのけられ、

私の心が折れた。

 

私だって本当は、片時も離れず

健児の傍にいたかったわよ。

それを、アンタが寂しがらせないよう

泣く泣く帰って来たんじゃないの。

なのに…なんなの!?

アンタを産んだ私を差し置いて

賢吾くんの事ばかり呼んで。

そんなに嫌なら、

ずっとパパといればいいのよ。

アンタなんて、こっちから

願い下げなんだから――――――!!!!

 

 

場所を憚らず叫びたかったが、

激しく渦巻くどす黒い感情を、

ぐっと呑み込み。

「………。勝手に泣いてなさい」

長男から離れてリビングへ行った事で

八つ当たりせずに済んだ。

 

「ちょっと麗奈!

賢一が玄関で寝てるんだけど」

「!」

リビングのソファでうたた寝していると、

買い物に行っていたらしい母の声で

目を覚ます。

慌てて玄関へ行くと、

泣き疲れて横たわる長男の姿があった。

 

「賢吾くんが出掛けてから

ずっと泣きっぱなしで…」

「そりゃあそうだよ、

賢吾くんがアンタのぶんまで

世話してきてくれたんだから。

アンタだって、そのおかげで

仕事に専念出来たんだろう?」

「そう…。だけど」

 

歯に衣着せぬ母の言葉が癇に障るが、

少なくとも長男に罪がないのは事実で。

(……ごめんね。賢一)

状況のわからない3歳児に

当たってしまった自分を、心から恥じた。

 

 

 

 

以来、私たち夫婦の

1週間ごとに付き添いを交代する

生活が始まる。

出産から4ヶ月経つ頃には

夫も銀行の引継ぎが終わり、看病と

家の事に本腰を入れられるようになった。

 

「とーさん……」

慣れか諦めなのか、

この頃には、長男も泣き叫ぶ事は

なくなったが…。

「…賢一!お兄ちゃんなんだから

指しゃぶりしないの!」

「!」

玄関でぽつんと座り

指をしゃぶる長男を叱りつける。

 

(完全な八つ当たりだって事くらい、

…わかってる)

当たってから、自己嫌悪に陥る繰り返し。

夫に母に、…息子たちに。

謝ってばかりの生活は、

ひとつ謝るたびに心を少しずつ

削っていった……。

 

 

 

 

 

「…お父さんに帰って来てほしかったら、

いい子にしなさい」

「いいこにしたら、とーさんとあそべる?」

「そうよ。」

そうやって繰り返し伝えるうちに、

無邪気に走り回っていた長男は

家に帰ると手を煩わせる事のない

大人しく本を読む子どもへ変わっていった。

しかし運動神経は相変わらず良いらしく、

運動会のかけっこでも1位だったという……。

 

私自身は、長男の勇姿を見た事がない。

長男の参観日も誕生日もクリスマスも、

全部夫任せだったから。

悲痛の叫びをあげながら

沢山の針を刺される

次男を見ているというのに、

とてもじゃないけどお祭り気分には

なれなかった。

そんな痛い思いをして頑張っても、

成長に伴うズレを修正するための

さらなる手術が待ち受け―――。

期待と落胆、不安に苛まれる

ゴールの見えない生活のなか、

次男の小さすぎる手を握り

日々生きていく事で精一杯だった。

 

 

 

 

そんななか、年中組になった長男は

同級生の子から誕生日会に招待された。

「…きょうは賢一をお招きいただき

ありがとうございました。

賢一、ご迷惑をお掛けしませんでした?」

「とんでもない!

賢一くん、しっかり者のいい子なんで

一番手が掛からなかったわ」

実際は、招待状を受け取ったのは夫で

参加すると返事をしたあとに

報告を受けたのだった。

「すごいんだよ!ぼくの顔より

大きなケーキが出てきて、

たくさんのロウソクを

ふぅーっ!って消すんだ。

部屋もかざりできらきらしてたよ」

「そう……」

帰宅後、興奮気味な長男の言葉に

嫌な予感がしていると。

 

「…あのさ?かあさん。

ぼくも誕生日会したいな…って。だめ?」

 

(…だから嫌だったのよ。

友達の誕生日会に行かせるなんて)

夫から報告を受けたとき、

こういう展開になるであろう事が

安易に想像出来た。

こんな些細な願いも叶えてやれない事を

謝らなければいけなくなるじゃないの。

長男に謝らなければいけない事由を

どうしてわざわざ作ってしまうのよ……。

 

「……賢一。」

「っ」

深いため息をついたあと、口を開く。

 

 

「…貴方の言葉に、

お母さんがっかりしたわ」

「!」

長男の肩が、びくりと跳ねる。

 

「健児が、沢山の針を刺され、

身体を切り開かれながらも

頑張っているというのに。

パーティーがしたいだなんて我儘、

よくも言えたわね。

我儘言う子は、お母さん大嫌いよ…!」

「…っ。ごめんなさい……」

“大嫌い”という言葉を聞くなり、

長男の大きな目に涙が溜まる。

 

(…ああ。またやってしまった)

自分が謝りたくないがゆえに

長男の性格に問題があるような

言い回しをして。

性格が悪いのは自分の方じゃない…。

 

「お母さんが駄目と言ったからって、

お父さんを困らせたら駄目よ。

そんな悪い事言う子は、

お父さんにも嫌われるんだからね」

「はい……」

項垂れた長男をそのままに、

途中になっていた家事の続きを始める。

 

兄弟の差別をされて育った夫が

この事実を知れば、私は嫌われてしまう。

口止めをしたいがゆえに、

また長男を悪者にしてしまった……。

 

「そういえば、来月ケンちゃんの

5歳の誕生日だけど。

今年は麗奈さん、一緒に過ごす?」

「…いいえ。賢吾くんがいてあげて頂戴」

「了解。」

長男の4歳の誕生日のときは、

お祝い気分になれず夫に任せ。

誕生日会のひと悶着があったため、

今年も夫に任せる事にした。

 

 

 

 

冬になると、次男は退院し

しばらく自宅で暮らす事が出来た。

長男は嬉しそうに、

次男の世話を焼こうとするが。

 

(保育園でどんな菌をもらっているか、

わかったものじゃない)

このまま自宅生活を持続したい私は

病気にかかりやすい次男から

長男を遠ざけるため、

長男に本を買い与えた。

 

「健児は身体が弱いから…。

びっくりさせないよう、

お部屋で本を読んでいてね」

「うん。わかった」

 

幸い夫はこの時期、

フリーランスの仕事が軌道に乗って

沢山の依頼に奔走していて。

次男の長期戦を覚悟した頃

退職した私は、実家の事務手伝いを

するだけだったから

事を隠すのは容易かった。

 

 

 

こうして接触を避けていたにもかかわらず

長男は胃腸風邪に感染。

次男への感染を防ぐため、

嘔吐用のバケツと水分補給のための水筒、

呼び出し用のブザーを置いて

長男を隔離した。

「何かあったら、ブザーで呼んでね」

「……。」

長男は、弱々しく頷く。

「いい子にして寝ていれば、

病気も治るからね」

 

これまで散々次男の闘病に

立ち会ってきた事で、

私の感覚は麻痺していたのだと思う。

関わりたくないという気持ちも手伝い、

この時点で長男の胃腸風邪が

かなり悪化していた事を

見抜く事が出来なかった――――――。

 

 

 

結局長男は、

夜帰宅した夫によって病院へ運ばれる。

脱水症状が酷く、あと少し遅ければ

手遅れだったとの事だった。

 

(私は。なんて事を……!)

入院準備のため一旦戻って来た夫から

初めてぶつけられた怒声によって、

自分のしでかした事の重大さに気づく。

それと同時に、自分の事が怖くなった。

 

いつか私は、

長男を殺してしまうかもしれない――――。

 

 

 

 

 

そして、長男・小学1年生の秋。

学童で長男が暴れて

同じ学童の子を怪我させたという

連絡が入った。

すぐに駆け付け、長男に事情を聞くと

からかわれて腹が立った、との事。

 

哀しくて哀しくて哀しくて…。

やり場のない手を振り下ろし、

思わず長男の頬を打った。

「健児が小さな身体で
頑張ってるのに、どうして
アンタは困らせるのよ!」

声を張り上げ𠮟りつけ、

被害を受けた子とご父兄に

何度も頭を下げ。

 

最後は逃げるように、

学童を辞めたのだった。

 

 

 

 

帰宅後、長男が部屋から

出てくる事はなかった。

 

(賢一が。…ついに、壊れてしまった)

私は私で、絶望していた。

あんなに大好きだった、

太陽のような笑顔も、

遠い過去のものとなってしまった。

私とこのまま暮らしていたら、

どちらかが狂ってしまい

本当に殺すか殺されるかという事態に

なるのかも……。

 

 

 

 

 

「賢一を…施設に預けよう?」
「!!!!」

翌日、私が出した結論がソレだった。

「健児が生まれてから、

…賢一の誕生日も参観日も、

何もかも賢吾くん任せで。

罪悪感を抱く事にも疲れたし、

賢一がいなければ罪悪感で

苦しむ事もないのに…って。

時々、恐ろしい事を考えてしまう…」

ひとつ謝るたびに、

罪悪感が膨らむたびに、

自分が否定されている錯覚に陥った。

そしてそのたびに、

罪悪感を抱かせる長男が

疎ましくなっていく自分がいた。



「私……。このままじゃ
賢一を殺してしまうかもしれない。
―――ううん!もしかしたら
私のせいで、賢一の心は
既に死んでるかもしれないわ…」
ついにひと筋の涙が零れると、

次から次へと流れ落ちていった。

「麗奈さん…待って。
きっと疲れているだけで」

「お願い賢吾くん!

私の心がまだ、あの子の母親で

いられるうちに離れて、

幸せに生きてほしいの!

お願い。お願いよ……」

夫の腕を掴んだまま、

スローモーションのようにくずおれて。

子どものように声をあげ、泣きじゃくった。

 

 

 

 

醜い感情までさらけ出した結果。

夫が施設入りを受け入れる事は

なかったけれど、

夫が長男の世話を

全面的に引き受けてくれる事に。

 

「…アンタ母親だろう!?

ただでさえ我慢ばかりな賢一をよくも―――」

「麗奈さんを

責めないでくださいお義母さん!

妻をここまで追い詰めた、

僕の責任です…!」

私の母が反対し、怒鳴りつけたときも、

夫が盾となってくれた。


「それに、施設に預ける事が

見捨てる事だとは限らないと思うんです。

僕自身、小学生までの間虐待されてきて

子供心に疑問で仕方がなかった。

そんなに自分の事が嫌いなら、

どうして施設に

入れてくれなかったんだろう――って。

そんな風に思う子どももいるんです」

「賢吾くん。アンタ…」

夫の訴えに、激昂していた母も耳を傾ける。


「生意気ばかり言ってすみません。

ただ…。麗奈さんは僕の親とは

違うという事を言いたくて。

 

…麗奈さんは、

賢一への愛情があるからこそ、

何が最善なのかと考えてくれました。

僕も意見こそ違えど、

僕なりに、家族のための最善を

考えたつもりです。

どうか、お義母さんのお力を

貸して頂けないでしょうか―――――!」

 

 

 

 

夫の懇願により、

母も協力してくれる事になり。

私はようやく、

長男への罪悪感から解放された。

 

 

最初は、とにかく

開放感でいっぱいだった。

私の用事やリフレッシュしたいときには

長男の登校中、夫が病院へ来て

次男に付き添ってくれたし

数年ぶりにお気に入りの

美容院にも行った。

 

しかし、かつてお気に入りだった

洋食店のランチへ出掛けたとき。

小さな子どもを連れた母親とその友人が

近くの席になり、否応なしに

親子の交流を見る事に。

「…ホント○○くん、

ママ大好きだよねー」

「もうね!年の離れた末っ子だから

私も甘やかしちゃって」

「まだ3歳だっけ?可愛い盛りだよね」

「そうそう!

まだまだ可愛いおチビちゃん」

子ども椅子に座らず、

母親の膝の上に座る子どもは

にこにことしている……。

 

(賢一がお兄ちゃんになったのも、

3歳のときだったわ。

あの子よりも、もっと小さくて。…細くて。)

小さすぎる次男と比べたら

大きなお兄ちゃんだったから、

あの子を抱き締める事もなかった。

 

 

 

ランチを終えて病院へ戻るときも、

クリスマス色に移ろう街並みを見て

長男の顔を思い浮かべ……。

 

次に自由時間を得たとき、

私は無人の自宅へ向かった。

家の中は綺麗に片付いていて、

洗濯物も、夫が畳んだにしては

やや不格好な状態で重ねられている。

(賢一が手伝ってるのかしら…)

 

そしてテーブルの上には、

シューズ袋が置かれていた。

長男が3歳の頃に作った、

最後の手作り品。

小学校でも使うと言ったらしく、

何年も使い続けてほつれた袋には

何重にもセロハンテープが

貼られている――――――。

 

「ままぁ!あっがとね!」

あの頃の、太陽のような笑顔が蘇り

涙がこみ上げた。

「……う…っ…。

何やってるんだろう、私……」

声を押し殺して泣き続けたあと、

私はよろよろと自室へ

裁縫箱を取りに行った。

 

 

 

 

賢一と、向き合わなくては。

そう思い立ったのは、長男と離れて

実に2ヶ月が経った頃。

 

 

私のほうから長男の名前を出すと、

夫は待ってましたと言わんばかりに

この2ヶ月間に撮りためた画像を

見せてくれた。

「…麗奈さんには悪いけど、

この2ヶ月は好きなように

やらせてもらったよ。

賢一には、病気の家族がいない

家庭の子と同じように、色々な

経験をさせていくつもりだ」

見てみると、キャンプやサイクリングの

画像も沢山あった。

魚釣りもしたらしく、川魚を手に

誇らしげに微笑むものも。

「きっとさ。麗奈さんにとっても

賢一にとっても、

必要な期間だったんだよ。

ほら、この写真。心が死んでるような

子に見えないだろう?」

「よかった……。

賢一、すごくいい笑顔してるわね」

涙を貯めながら、

画面の中で笑う長男を指で撫でる。
 

「私…。この、太陽のように輝く

笑顔が大好きだった。

もう二度と見れないと思ってたけど。

また笑えるようになって良かった―――」

しみじみと語るが、夫は何故か

怪訝そうに私を見ている。

「賢一を施設に…って言ってた日も

気になってたんだけどさァ」

「?」

 

 

 

「…賢一って。

そんなに死んだような顔してるか?」

意味がわからず、首を傾げる。

「アイツお調子者なところもあるし

オナラやウンコって言葉でげらげら笑うし。

そりゃあ我慢も沢山させてるし、

学童通ってる頃は笑顔も減ってたけど、

基本情に厚くて、

表情も豊かな方だと思う」

「表情が。……豊か?」

私の知る長男のイメージとは

かけ離れていて、

情報の処理が追い付かずにいると

夫は、スマートフォンで撮った

数年分の動画の中から

数点を見せてくれた。

その中で動く3歳から現在までの長男は

笑ったりむきになったり、慌てたりと、

色とりどりの表情をしていて。

 

 

 

「笑顔を忘れたんじゃなくて。

私の前で笑えなかったのね。あの子は…」

ようやく事の次第を理解した私に、

夫は静かに語る。

 

「これは俺の想像だけど…。

賢一にきつく当たって来なかった?」

「!」

「アイツよく、自分の事を

迷惑を掛ける悪い子だって言うんだよ。

誰かが言わなきゃ、あんな子供が

思いつかねえ言葉だなって思ってさ」

「……ええ。私の言葉だわ……」

賢い夫にこれ以上隠す事は

出来ないと悟り、白状する。

 

「会って謝りたいけど、

今さらどんな顔をして会えばいいのか…」
この期に及んで怖気づくが、

夫はけっして私を責めなかった。

「深く考える必要ないさ。
ただ『ただいま』って言って
顔を見せてやってくれれば、

…あ!クリスマスイヴに、
少しだけ顔を出せないか?」
「!」
「クリスマスとかお正月とか、冬休み中は

子どもの喜ぶイベントも多いから。
いい足掛かりになると思うんだ」

 

フットワークの軽い夫は、

その後すぐに病室へ向かい、

長男と私の再会のため

2時間だけ次男を看て欲しいと

頼み込んでくれた。

 

 

 

「麗奈さんは真面目だから…。

きっと事あるごとに、

賢一に申し訳なく思って、

自分を責めてきたんじゃねえ?

…まずはちょっとずつでいいから、

自分に優しくしてみようよ」

「自分に、優しく……」

「美容院やランチ行くようになってから、

麗奈さん自宅にも帰ってたろ?

賢一のシューズ袋も直してあったし。」

「…賢吾くん、気づいてたの!?」

これまで何も言われなかったから

驚いていると、夫は軽くウインクしてみせる。

「自分のための時間を持ったら、

ちょっとだけ心に余裕が

出来たのかな~と思ってさ」

「……そうね。そうかもしれないわ……」

 

 

 

 

クリスマス当日、

私は長男に会って、謝る事が出来た。

堰を切るようにわあわあと泣く長男を見て、

私まで泣いてしまって……。

 

情けない母親だと思いそうになったけれど、

夫の言葉を思い返して

自分を責めるのをやめてみる事に。

するとほんの少しだけ、

足元が軽くなったような気がした。

 

 

 

 

年が明け、お正月の2時間ほど会い、

新しい手提げセットをプレゼントした。

「うわあ!ちょっと大人っぽくなった!」

「…うふふ。

賢一、ちょっと大人になったからね」

幼児用の布で作られた前作とは違う

新作のデザインを、

長男も気に入ってくれたようだ。

「母さんありがとな!大事にする!」

あの笑顔を見る事が出来て、

涙が出そうになったのを

慌てて引っ込める。

 

 

さらに冬休み明けには、

再び夫と交代で泊まり込む生活に。

私は、長男の通っている新たな託児施設

『ひだまりハウス』へ長男を迎えに行った。

 

 

約3ヶ月ぶりの、長男との二人きりの生活。

少しだけ緊張するけれど、

自分に優しく…を合言葉に前進した。

 

「…ただいまーっ!」

2人で声高らかに、家の中へと入った。

 

 

 

 

******************

 

 

 

この、久しぶりの

文字数1万超にわたる中編に

お付き合いくださったかたが

もしいらっしゃいましたら、

ありがとうございます!!!

壁]・//・)チラッ

 

 

 

しかも…重い!(^▽^;)

でも麗奈さんみたいに、

謝る事が億劫になってしまった事、

子どもが小さな頃にありました!(^^;)

 

適当なものが思いつかなかったので

…仮に、児童館の閉館時刻に

泣き叫ぶ我が子を連れ帰るとき。

きまりだから仕方ない事なのですが、

我が子にとっては遊びを

強制終了させられるワケで。

「そうだよね~。

まだ遊びたいよね~ごめんね~」と、

我が子の悲しみに寄り添おうとしたとします。

 

でも、このパターンを毎度繰り返したり、

はたまたホルモンのバイオリズムによって

乙女心wが複雑に揺れる時期は、

 

「何で悪くないのに

謝らなきゃいかんのだァァァッ!」

と、心の中で叫んでしまう(^▽^;)

 

 

 

あと、文句をぶちまけたいけど

物理的距離をとって

落ち着かせたのも実体験です(笑)

 

「ごめん母さんこれ以上ここにいたら

怒っちゃいそうだから!」

といって(正直すぎるw)、

部屋やトイレに駆け込み

約10分ほど引きこもった事が

たま~にありました^^;

 

 

 

何であのとき、

あんな事を言ってしまったんだろう?

という後悔もまた然り(^▽^;)

 

 

森下家のバアイは

波乱万丈すぎるし、

モリシタくん視点で考えると

うわあ~ケンちゃん寂しかったねえ!

頑張ったねえ!よしよし!って

頭撫でてあげたくなるのですが、

 

出来事をひとつひとつ切り取ると、

麗奈さんはけっして酷い母親ではなく

彼女なりに必死だったんだろうなあ

というのが、にょへ子の感想です。

 

 

 

賢吾さんは、いい男(//▽//)

でも今回、ただでさえ長文なのに

~と思って省いた

変☆態エピソードがわんさかあるので

別の機会に溺愛シリーズも

公開したいです(´艸`*)

 

 

 

それではお付き合いいただき、

ありがとうございました(^^)