今月上旬に発表会を終えた次男の、

劇の練習が始まった頃に思いついた妄想です。





紅城→28歳、香坂→20歳という設定で、

前・中・後編仕立てでお送りいたします。

今回は後編をUPです。


(☆前編中編 はこちらです)




≪注意!≫


長文です。


登場人物すべてが病んでます。
ラストも病んでます。

あっでもにょへ子は病んでません(笑)





ご容赦いただける方のみ、スクロールをお願いしますm(u_u)m













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「オオカミと七人のコヤギ 後編」






十歳になるまでの俺は、臭い雌豚どもの玩具として生きてきた。

血だけは繋がっている両親が警察に捕まったあとは、

施設に引き取られ、そこでも俺は所員の玩具にされた。


それが当たり前だと思って生きてきたが、

施設の他のやつらからの冷たい視線によって、

今まで自分が受けてきた施しが、

いかに残酷だったのかを思い知る。



俺は辱めてきた大人どもに復讐してやろうと誓った。

だがそんな屑どもを殺したがために、

一生の大半を塀の中で暮らすなんて不条理だろう?


だから俺は、絶対的な権力を手に入れる道を選んだのさ。

世界中の屑野郎どもが、俺にひれ伏すような権力をな…。








4、研究所





「所長。被検体七七〇番の引き渡しが完了しました」

「ああ。ご苦労様です、カイザーくん」


たかがヒト一体で、

Kファクトリーとの結束が強くなるのなら安いモンだ。



「…さて。僕はそろそろあの子の元へ行ってきます」

「ひと月前に小八木邸で捕獲した青年ですか。

 彼…もう既に狂ってるのではないですか」



カイザーがモニターを切り替えると、

檻の中、弱々しく横たわる細い裸体が映る。


貞操を守るために装着された下着の中では、

常に刺激が与えられている。

頭部から目まですっぽりと覆う機械によって、

常に二人の戯れを見せられ続ける青年は、

涙と唾液を流し、同じ言葉を繰り返し発していた。



「彼、いつもうわ言のように男の名前を呼んでいますが…。

 シロウって貴方の名前じゃありませんよね?

 この施設では、本名を明かす事はご法度ですよ」

「偽名に決まっているでしょう。

 僕の本名なんて、とっくの昔に捨てましたから。

 君だって色々名乗っているではないですか」

「では安心ですが…」


そう答えたあと、

カイザーはモニターから俺に向き直り、口を開く。



「所長。貴方は…幸せですか?

 狂って壊れてしまった彼の心は、貴方のものにはならないのに」

らしくないカイザーの質問に、くすっと笑う。


「心などという見えないモノなんて、いりません。

 心がなくても、直はずっと僕の傍にいる。

 これ以上の幸せなんてありませんよ」

「貴方…相当歪んでますね」

カイザーは、顔をしかめる。


「ふふふ。君にだけは言われたくありませんよ。

 ……ところで、君は明日A邸に乗り込むとか。

 あの家の黄色い頭の子、捕獲後はどうします?

 被検体ですか?それとも……」


問いかけながら、無邪気に笑う少年の写真を渡すと。

「…見てわかりませんか」

微かではあるが珍しく顔色を変えたカイザーを所長室に残し、

直のいる地下へと向かった。




五年前、目ぼしい被検体はいないかと赴いた施設で、

入所したばかりの直と出会った。

長年心身ともに虐待を受けたというあいつの瞳は、

ガラス球のように空虚なモンだったが…。


それすら美しいあいつにに見惚れ、

すれ違いざまに鼻を掠めた匂いに興奮した。

俺は…直が欲しくてたまらなくなった。


研究所へ戻るとすぐに、金に困っていた小八木に連絡し、

直の引き取りを斡旋する。


こうして引き取られたあとは一応大切にされたのだろう、

小八木から送られた写真に写る二十歳のあいつは、

瞳に光を宿し、美しさを増していた。





「…待たせたな、直」


室内のカメラの電源を全て落とし、拘束を解く。



「ああ、司狼さん!逢いたかった…」

縋るような眼をしながらも、

自分の涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭こうと、

タオルを探す姿がいじらしい。


そんな直を引き寄せ、自分のハンカチを取り出し拭ってやる。

うっとりと俺を見つめる直の唇を奪い、この日の戯れが始まった。






「…愛してます。司狼さん」


この部屋を出ていく前に再び拘束の準備をしていると、

直は必ずこの言葉を口にする。

この忌々しいだけの名前も、

なぜかこいつにだけは呼んでほしかった。



「所長。貴方は…幸せですか?」


カイザーの言葉を思い出し、痛みが胸を掠める。

だが所内の人間ですら、誰ひとり信用していねえ。

だから俺のいない間に直が穢されねえよう、

そして直が俺以外の人間を見ねえように、拘束は必要だ。


本当は直の匂いが溢れるこの部屋にずっと留まりたいが、

事業を怠るわけにはいかねーからな。



準備が整い頭部に機械を装着しようとすると、

いつもならこのまま大人しく身を任せるだけの直が、

再び口を開いた。



「俺…嬉しいです。

 こんなに愛情を注いでくれたの…アンタだけだ。

 親にはずっと…お前はいらない子だって言われてきたから」

「……」


この言葉は意外だった。このひと月の拘束によって、

ほとんど思考が奪われたとばかり思っていたからだ。

いつもの『愛してる』という言葉だって、

インコが覚えた言葉を繰り返すようなモンだと、

決めつけていたのに…。




「だから俺…頑張ります。

 こんな道具をつけなくても、司狼さんだけをずっと愛してるって。

 そうアンタに信じてもらえるように…」

「直、お前……」


顔をほんのりと赤らめながらも真っ直ぐに見つめる直の言葉に、

俺は目を見開いた。

このひと月、こいつはこの道具を付ける意味を知りながら、

装着を拒まなかったというのか。





「直…。今、お前の服を持ってくるから」

「…え?」

直の瞳に微かな期待の光が宿るが。



「お前を……解放してやる。お前は、明日から自由だ」
そう告げると、直の面は悲しみ一色に変わる。



「どうして…ですか?

 一生愛してくれるって、言ったじゃないですか。

 俺は……。ずっと、アンタの傍にいたいのに」

「それはお前が洗脳されているからだ。お前の本心じゃねえ。

 金や住居、仕事まで全部手配してやる。

 今から来る部下に、なんでも言え」

「…司狼さんッ!」


叫ぶ直を置いて退室し、カイザーに連絡を入れる。




…直の心は、どんなに辱めても壊れなかった。

心が壊れたあいつなら、俺を裏切らねーはずだ。

だが心がある限り、いつか俺から離れていくだろう。



(それなら、捨てられる前に捨てるまでだ……。)




その後三日間、俺は『製造』に没頭した。

今までは一日一体作れたらいいほうだったが、

三日で五体を完成させた。


意識のあるまま、

目を閉じられないようにして施術を施すときの、

被検体の表情が愉快でたまらねえ。


被検体の中には、

以前夜会で会った事のある臭い雌豚も含まれていたが、

そいつは血の臭いまで臭かったな。

懇願の言葉を繰り返していた気がするが、

構わず『製造』に努めた。


三日後、さすがに疲れが溜まったので製造室を出ると、

カイザーが黒い術衣を身に着けて待っていた。




「…おや?新たな被検体ですか」

そう尋ねると、カイザーの口から衝撃的な言葉を聞かされた。



「小八木の息子に今後の希望を訊いたところ、

 被検体となって所長の役に立ちたいとの事でした。

 所長の許可が下り次第『製造』を開始できるよう、

 準備を進めていたところです」

「!!!!!」

あいつは、まだ所内にいたというのか。



「…直が、ですか!?まだ、先脳が解けていない…とか?」

「いえ。彼の話しぶりを聞いた限りでは、

 檻に収容された当初から正気を保っているようです」

「それなら、なぜ……」


カイザーから直のいる部屋を訊き出し、走って向かう。





「おい直!お前、なんで残ってんだよ!!?」
手術着を着てソファに佇む直を怒鳴りつける。



「俺なりに…アンタの役に立てる事はないかって考えたんです。

 あんな形でも……アンタに愛されて幸せだったから」

直はしっかりとした眼差しで、俺を見据える。


「カイザーという人に、訊いたんです。

 俺は何円くらいで売れるかって。

 そうしたら、高くて二億にはなるだろうって…」

「そういう問題じゃねえだろ!!

 そんな事して…俺が喜ぶと思ってんのかよ!?」

叫びながら問いかけると、直は悲しげに顔を歪める。



「俺には…わからない。

 ずっと、人と深く関わらないように生きてきたから…。

 でも、ただ外の世界で生きるよりも、

 被検体になった方がアンタの研究資金も増えるだろ?

 最後に…アンタの役に立って消えたい」


「…なんでだよ。俺は…お前にひどい仕打ちをした挙句、

 ゴミのように捨てたんだぞ?なんでそこまで……」

金も仕事も与えてやるというのに、

被検体になる道を選ぼうとするこいつの気持ちが理解できない。



「それは…。今でも、司狼さんの事を愛してるから。

 アンタは…いらない子だと言われてきた俺の事を愛してくれた。

 この思い出があれば、俺は…もう、何もいりません。

 短い間だったけど…。ありがとう、司狼さん」


直は瞳に涙を湛えながらも、どこか穏やかな面持ちで俺を見る。



この期に及んで、まだ俺を愛しているというのか。

あんな救いようのねえ姿になってまで、俺を喜ばせたいのか。


今までこんな無償の愛を注いでくれた人間が、俺にいただろうか。

……いや、こいつだけだ。





「…そろそろ、カイザーさんの所へ行かないと」

室内の電話でカイザーに連絡をしようと立ち上がる直を、

無理矢理押さえつける。



「行くな、直。どこにも、行くな……」

「司狼…さん?」

直は驚いた顔で俺を見つめる。

気がつくと、俺の目から温かいモンが零れ落ちていた。


「あんな姿になるな…。お前を…失いたくねーんだよ。

 俺も、直の事を愛してるから……」

直がどこにも行けないよう強く抱き締め、直の匂いに埋もれる。



「愛してます、司狼さん…。

 俺、ずっと傍にいますから…」

涙声で囁く直の腕にも力が込められたあとは、

ただ静かに抱き合った。




俺は…、生まれて初めて『愛』を知った。








5、ヘリポート



「研究所の未来はお任せください、所長」

「そのコードネームは、

 これからは君が使ってください。カイザーくん」




研究所のヘリポートにて、別れの言葉を交わす。


俺は研究所をカイザーに引き渡し、直と田舎で暮らす事にした。

手切れ金がたんまりあるから、

慎ましく生きていけば一生生活に困らねーだろう。



あんなに欲しかった権力が、

直の前ではちっぽけなモンに思えた。

この研究所を出るからには、

直と永遠を生きる事は出来なくなるが…。

死ぬまで直が隣にいてくれたら、それでいい。


俺の心にこんな穏やかな感情が芽生えるとは、

思いもしなかった。


いま俺は……幸せだ。



「…さあ、行きましょうか。直」

「はい…。司狼さん」

直の手を取ってヘリコプターへと乗せ、自分も乗り込む。

パイロットに合図を出し、空高く上がっていった。










二人を乗せたヘリコプターが彼方へと消えようとしている頃。



「……本当に、やるのか?カイザー」

俺が率いる開発チームのサブリーダーが、

青い顔をしてこちらを見遣る。



「…何を怖気づいている、スノウ。

 組織を抜けた人間に情報を漏らされては困るだろう」

「だが所長が、やっと幸せを見つけたというのに…」

「あれはもう所長ではない。

 愛に飢えた、ただのドブネズミだ」


それでも躊躇し続けるスノウから、スイッチを奪い取る。




思い通りに情に流されてくれたな、あの男。

小八木の息子が正気を保っていたのは想定外だったが、

…これでこの研究所は俺のものだ。


数日前A邸で捕獲したあの子を愛でながら、

この施設を牛耳ってやろう。






「今まで世話になりました。あの世でお幸せに…紅城さん」



俺はフッと笑いながら、

ヘリコプターに仕掛けた爆発装置の起爆スイッチを押した。






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ごめんなさい、最後まで病んでました(汗

なぜか次男に罪悪感が(;´▽`A``



そもそもあの手法を再現出来るような男が、

大人しく従っているワケがないのです。




でも所内の人間を誰も信用していなかった所長のこと。

いち早く起爆設定に気づいて解除しているかもしれないし、

直くん抱えてパラシュートを使い、

どこかへ降り立ったかもしれません。

ハッピーな紅直が好きなので、

そうであってほしいと願うばかりです。(≧д≦)

次はもっとマシな紅直書きますっ。



ぶっとび設定にもかかわらずお付き合いいただき、

ありがとうございました(^^)