落語の「子ほめ」という噺に、「ジャワ、スマトラは南方だ」という節が出てきます。噺自体は古典落語ですが、この一節は太平洋戦争中にインドネシアへ従軍した噺家が、後からアレンジして加えたもののようです。

 

昭和の前半以前の日本人にとって、ジェット機がなかった時代に欧米諸国へ行くのはもっぱら船となりますので、今のようには手軽に行くことはできませんでした。したがって当時海外旅行の行き先となると主にアジアとなり、紀行文がいくつか残されています。

 

その代表的なものに、1940年(昭和15年)に書かれた金子光晴の「マレー蘭印紀行」があります。私がこの本を知ったのは、沢木耕太郎の「深夜特急」の主人公が、金子光晴の本を持ってマレーシアを巡っていたのを読んだことでした。

 

 

「マレー蘭印紀行」で金子はマレー半島でのことを主に書いていて、ジャワ・スマトラについて触れているのはわずかですが、インドネシアはマレー半島での体験と比べると良い印象を持っていたように思えます。

 

もう一つ、「世界紀行文学全集第14巻南アジア」という本があって、今は絶版になっていますがアジア各国の紀行文がたくさん載っていて、インドネシアについてもいくつか書かれています。執筆者は佐藤春夫や高見順といったそうそうたるメンバーで、金子光晴の妻だった森三千代もいます。

 

この紀行文には戦時中日本の占領下の国に、従軍記者としてレポートしたと思われるものが多いですが、インドネシアについて書かれたものは戦争の影は見られず、みなインドネシアでの生活を楽しんでいたようです。

 

昨今の日本は欧米志向になりがちで、アジア諸国への関心が二の次になってしまうのはちょっと残念です。インドネシアの街を歩いていると、オランダ人の旅行者をよく見かけました。彼らはかつてインドネシアを300年余り植民地にしていたせいか、インドネシアの地理をよく知っていて、またオランダからの直行便もありますから、距離はありますが今でも身近な国のようです。

 

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