東京外国語大学多磨キャンパスでマレーシアの芸能、ワヤンの映画を上映するというので、日頃接することがないマレーシアの映画でもあり観てきました。ワヤンというとインドネシアのジャワのワヤンがメジャーで有名ですが、マレーシアでもワヤンをやっているのは知っていましたので、マレーシア版のワヤンの紹介映画かと思っていました。

 

映画のタイトルは「影のない世界」(マレー語では“Wayang Rindukan Bayang”で私の拙い直訳では「影を慕うワヤン」とでも言いますか)です。映画を観てみるとテーマは単なるワヤンの紹介映画ではなくて、イスラム化政策が進みワヤンの興業に対して公権力の統制が行われる中で、どうにかして伝統芸能を守ろうとするワヤン人形遣いたちの生き様を描いた、見方によっては政治的・宗教的な重い内容のものでした。

 

マレーシアは連邦制で、もっぱら州の政策が庶民の生活に大きく影響します。映画の舞台となったクランタン州はマレーシア東北部、タイと北側で接しているマレー系の人口が9割を超える地域で、マレーシアではマレー系民族イコールイスラム教徒でもあり、州議会の多数を占めるイスラム政党の影響が大きいようです。

 

ではワヤンのどこにイスラム教の問題があるのか、映画ではワヤンを上映する前の独特の儀式や供物、人形への偶像崇拝があげられていました。またワヤンの演目にはインド由来のラーマーヤナなどの物語が多く、イスラムにとっては異教のヒンドゥー教の影響がある点も問題のようです。

 

前に「イスラム教」のところでも書いたとおりインドネシアでも同様の問題がある、と私は常々思っていてインドネシア、特にジャワのイスラム教は良い意味では寛容、悪く言うといい加減と言って良いでしょうか。つまりイスラム教の教義に忠実に照らし合わせようとすると、このマレーシアの映画のような問題が、インドネシアでもあってもおかしくないと思うのです。

 

ただインドネシアの初代スカルノ大統領は、インドネシアではイスラム教がマジョリティーにも拘らず敢えて宗教の自由を掲げ、国内の多くの民族を一つに纏めようとしました。インドネシアでも時代の流れで、ときにはイスラム色が強くなったりすることはありますが、その精神は現在も引き継がれていると私は思います。同様にインドネシアの人たちもそのことを意識し、それがインドネシアの長所と思っているようです。

 

 

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