インドネシアに滞在することになった外国人は、入国後すみやかに長期滞在ビザを取得するために、入国管理事務所に出頭することになります。もちろんまだ言葉もわからず右も左もわからない状態で、1人で入国管理事務所に行くのは無理なので現地で働くことになった会社の、総務のベテランインドネシア女史がお供してくれました。 

 

事務所はジャカルタの中心からちょっと南にはずれたところにあり、大通りから事務所の前の狭いスペースに車を停め、3階建ての入国管理事務所のビルに入っていきます。事務所の建物は現地の一般的なビルで、狭い入り口から人ごみの中を入ると、外の赤道直下のまぶしい光になれた目には薄暗く感じ、いきなり異国の空間に置かれドギマギしていた気持ちになりましたが、開け放たれた窓からは心地よい風が入り込み、緊張した気分を幾分かなごませてくれました。

 

その頃日本でよく外国人登録の際に指紋押捺のことが問題になっていましたが、インドネシアの入管事務所でも、黒い墨のようなものが付いた板に五本の指先を全部着け、係官が登録用紙に私の指を一本一本押し付けました。そのときの気分は、自分がこの国ではよそ者として改めてオーソライズされた瞬間という感じで、日本に住んでいる外国人たちの気持ちがわかったような気分になりました。昨今では黒い墨を付けることはありませんが、他の国でも指紋の登録をしているところがあります。

 

入国管理事務所の手続きが終わって、会社の事務所の有るジャカルタの東のはずれの工業団地に戻ってくると、やおら会社の総務のベテラン女史が、「カルチャーショックを受けませんか。」と言い出すのです。私が何故というような顔をしていたのか続けて説明するには、大通りから会社の工場に入るまでの500メートルくらいの通り沿いにあるバラックの家並みや、ドブ川の上に足場と周りに目隠しの板で囲んでしつらえてある簡易作りのトイレ(俗にいうポットン便所)を見て、初めての日本人たちはみんなビックリするのだということでした。私と同じ時期に日本から赴任した社長は、この景色は日本の終戦直後にそっくりで懐かしいとよく言っていましたが、戦後派の私にとっては確かに目を見張る風景でした。

 

(工場へ行く道@ジャカルタ)

ジャカルタジャパンクラブという日本人駐在員たちの親睦団体があって、そこの婦人部みなさんがユニセフのクリスマスカードを斡旋していたので、私の会社でも日本人たちに紹介してまとめて頼んだことがあります。婦人部の担当の方に電話して注文書とお金を持って、ジャカルタの街の中心部にあるクラブの事務所まで伺いますよと伝えると、担当の方はそれを強く固辞され、婦人部のほうから依頼のあった会社の方に伺うことになっているのでと言うので、ジャカルタ郊外の工業地帯のはずれの私の会社まで来ていただくことになりました。

 

会社へいらした婦人部の担当の方々を応接室へお迎えし、わざわざこんなところまで来ていただいたお礼を言うと、みなさん目をパチクリさせていていきなり、「今日はとても勉強になりました。こんなジャカルタもあったのだとわかって。私たちは普段住んでいる家の周辺の高級住宅街と、ジャカルタのメインストリートにあるデパートや銀行のあたりの景色しか見ていませんでしたけれど、こちらの会社の事務所に来るまでの道の両側の景色を見て、本当に驚きました。」と言うのです。ほめられているわけでもないので喜んで良いのやら困りましたが、婦人部のみなさまにとっては普段見ることのない非日常のインドネシアを体験出来て、さぞや貴重な1日になったことだろうと思いました。

 

(模型の馬をまたいだ子供たち@ソロ)

 


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