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今日はどこにでもいる、ある低俗な人間のお話をしましょう


その人間はとてもちっぽけでみっともなく、中途半端でどっちつかずな灰色をしているといいます。
実在するその人間の体験談を借りて、このお話を書きました。


『トカゲモドキ』



という新しい物語です。



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今日は来てくれてありがとう




私は小さな頃から動物が大好きでしたが、中でも爬虫類が特に好きでした。
爬虫類はかっこよさとかわいさを同時に合わせ持つ生き物だと思っていて、そこに私は惹かれたのかもしれません。
余談ですが、少し前に久々に男性or女性みたいな簡易的な診断テストをしてみたら、見事に50:50でした。
何度やり直しても50:50。
いつもそんな感じでした。
体は男だけど、頭の中には両方が混在している?
だからかっこよくてかわいい爬虫類に惹かれるのでしょうか?
爬虫類というよりは両生類だな-
なんて自嘲なのか何なのかよくわからない気持ちが浮かびつつも、結局私はただのどっちつかずの中途半端な人間で、しかも何故か自分を女性だと認識してしまったがゆえに、めんどくさいことになってしまったわけでした。


爬虫類の中でも私はトカゲが大好きでした。
小さくてすばしっこい生き物。
捕まえたと思ってもちぎれたしっぽだけを残していなくなる、逃げるのが上手な生き物。
そんなトカゲに惹かれたからだったのかな?
わたしが逃げ続けるようになったのは。
でも、例えるなら私はトカゲではなくヤモリ。
トカゲだと思っているヤモリ。
トカゲになりたいヤモリ。
そして、トカゲには絶対になれないヤモリ。
つまりオカマ、MtF、トラセク・・・何でもいいけど、とにかくそういうもの。
後に私は、トカゲモドキというトカゲのようなヤモリがいることを知ることになります。
トカゲモドキ!まさにわたしにぴったりじゃないかな?
でも、トカゲモドキといえばヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)で、多くの人に愛される人気の生き物。
どうやら私はヒョウモントカゲモドキではなかったか、そうだったとしてもよほど醜いモルフ(品種)だったみたいだけど。


初めてトカゲを捕まえたとき、わたしはとても嬉しかったのを覚えています。
虫かごに入れて、家に連れ帰ったのも覚えています。
そんなトカゲを目の前で潰されたのを私はよく覚えています。
その時の音は、未だに鮮明に覚えています。
ただ逃がすだけでよかったのに、わざわざティッシュの中で潰され、見せつけられたトカゲ。
しっぽは切れていたのかな?
それは思い出せませんでした。
わたしが逃げ続けるようになったのは、あのとき死んだトカゲの呪いなのでしょうか?
もちろん何の関係もないことはわかっています。
しっぽを切ることなんてできないから、私は隠すことで逃げてきた。
隠して、誤魔化して、へらへら笑って、やり過ごす。
それは私が生きるために学んだスキル。
心も体も傷付かないように。
いや、心のしっぽをその都度切っていたのかもしれない。
爬虫類は過酷な環境でも生き延びることができるように進化してきた、とても頑丈な生き物です。
でも、劣悪な環境でも何とか耐えられるだけで、快適な環境を望んでいることには変わりはないでしょう。
そもそも、私はトカゲのしっぽのように再生することはできないし。


満足したら、そこまでにしよう-
そんな淡い期待と、少しでも私自身の男性成分を消したくて睾丸を摘出してもらいました。
トカゲモドキがよりトカゲに近づけるように。
でもそれは笑えないジョークだったし、それで満足できないことは本当は最初からわかっていました。
案の定、気持ちが強くなっただけ。
私の中でどんどん巨大になっていきました。
SRSという言葉が。
自分の中の憎悪を消したくて、やりたいと思っていたSRSがやらなければならないことに変わる。
そのため考えなければいけないことが増える。
解決しなければいけないこと、立ち向かわなければいけないこと、選択しなければいけないこと、どんどん増えていく“こと”。
そして私はそのどれもが苦手でした。
逃げ続けてきた私には、とてもとても苦手なことばかりでした。


そういったことを自分一人で考えて決めなければいけなくて、相談できる人もいなかった。
群れをなさないトカゲモドキらしくていいや-
なんてふと思いながら、気付けばふとした拍子にSRSという言葉を打ち込んで、情報を眺めることが増えました。
ただ、ぼーっと眺めるだけ。
体験談はどれもがキラキラと輝いていて、そこに至るまでの、時には終わってからも続く苦しみすらも私には眩しすぎて、本当に私なんかとはモルフが異なるんだな・・・と、私は勝手に気持ちを沈めることが増えました。
何で私はSRSをしなければいけないんだろう?
私のモルフ名は『エバーシルバー』という曲からあやかって、エバーグレイ。
いつまでも白にも黒にもなれない中途半端でどっちつかずな色。
トカゲモドキはトカゲにはなれなくて、あくまでもヤモリのまま。
何をしたところで決して女にはなれないことが分かっている、男のままの私。
あなたたちのようにはなれない、永遠の灰色。
そんな私がSRSをするなんて、ただ滑稽なだけじゃないか?
自分の中の憎悪を消す?
そんなもの、ただの自己満足じゃないのか?
しかも、少しでもトカゲに近づきたいと願いながらもやろうとしていることは外観だけ、つまり造膣しないだなんて、自ら率先して中途半端になろうとしているじゃないか。
キラキラと輝くモルフの人たちの言葉が、そんな私の目につきました。

少しでも女性に近づきたかった-
女性には膣があるから-

・・・そうだよね。
本当はそれを望むべきなんだよね。
何で私は最初から中途半端を目指しているんだろう?
でも、今の私の状況では、それを望むのはあまりにも過酷すぎる。
それをすれば、もう今の場所には戻れないかもしれない。
今さらやり直すことなんてできない。
戻れたとしても、こんな生活ではせっかく作っても維持できないかもしれない。
そもそも、そこまでしたところで結局は私は・・・

決して女性にはなれない。

生物としてはもちろん、社会的にも。
トカゲモドキがトカゲになれないように。
私のモルフはエバーグレイ。
・・・このまま決めずにいるのも、いいのかもしれない。
今さら憎悪を捨てたところで、私には何が残るのだろう?
すでに多くを失った今、これ以上意地になって進んだところで、もうどうにもならないじゃないか。
逃げ続けるのは得意だったじゃないか。
なあ?君もそう思うだろ?




ある日、彼の姿を見た私はすぐに悟りました。
ケージを開け、中に手を入れ、その体に触れてみる。
嫌がってすぐ顔を引っ込めることもあれば、そんなつもりはなかったにせよ私の指をなめてしまうこともあったね。
元々体温は冷たかったけど、その時の冷たさは今まで感じたものとは違っていました。
硬直した体。
そうか、遂にこの日がきたんだな-
私が初めて出会ったヒョウモントカゲモドキ。
唯一家に来たヤモリ。
一番長い時間をいっしょに過ごした爬虫類。
私と共にいた、最後の家族。
ヒョウモントカゲモドキはその生涯を終え、私は唯一心配だったものを失いました。
私には家族はいるけど、家族はいなくなったよ。
・・・それからすぐのことでした。


タイのルンピニー公園には野生のサルバトールモニターがいる


そんなことを知ったのは。
サルバトールモニター、和名はミズオオトカゲ。
コモドドラゴンに次ぐ、世界第二位の全長を誇る巨大なオオトカゲ。
そんな野生のサルバトールモニターがルンピニー公園にはたくさんいるみたい。
しかも、人に慣れているのか野生個体であるにも関わらず逃げることはほとんどなく、側に近づくこともできるらしい。

会いたい-

最初は日本ですることを考えていたSRSは、いつしかタイでいいんじゃないかな?と思いながらも、造膣なしのSRSをわざわざタイにまで行ってするのは滑稽だよな・・・なんて思い、やっぱり少しでも近づけるし無理を承知で造膣をした方が・・・といつまで経っても決められないまま、悩み続けていた私。
同じような苦しみ、病、呪いを抱える人たちからは軽蔑されるのではないか?というような内容で悩み続けていた私。
そんな膠着状態が破られた瞬間-
いわゆる女性化に関する重要な岐路に立ったとき、私はいつも自分で決めてきたけど、毎回誰かの言葉だったり誰かのおかげで1歩を踏み出せました。
名も知らぬ人だったり、初めて会っただけの人だったり・・・
だけど、まさかサルバトールモニターが、いやヒョウモントカゲモドキが、爬虫類に背中をそっと押されるとは思わなかった。
いや、本当はそれだけじゃなくて、もちろん他にも背中をそっと押してくれた人はいるんだけどね。
でも、それはまた別のお話。
本当に情けなくてみっともないぐらいに滑稽だよね。
でも、私はそれでよかったと思います。


私はこれからも中途半端だし、モルフはエバーグレイだし、埋没なんて有り得ないし、普段は男として50:50の人間としてやっていくし、キラキラなんてせずにどんよりとしたダウナーな感じで、群れずに、自分を可愛がりながら、できるだけ自分をネタにして、かっこいいだの美魔女だの強がりをぬかしながら、腹の立つものには中指を立てて、恩を感じる人や人として好きな人たちの幸せを願って、時には応援して、そんでたまには恋のひとつやふたつでもできればそれでいいやって思っています。
ヒョウモントカゲモドキはかっこよくてかわいい生き物だけど、モルフ“エバーグレイ”はとてもとても凶暴な、私だけのモルフだからね。


ヤモリは家内安全、金運上昇、再生、といった意味がある生き物だそうです。
また、トカゲも色々な意味のある生き物で、幸運を象徴する生き物という意味もあるようですが、しっぽが切れても再生するということから、再生、再誕、再スタートといった意味があるようです。
トカゲモドキのような私は、その両方を合わせ持っている・・・わけでは当然ありません。
でも、何かが変わるわけではないけど、実際に会えるかなんて分からないけど、タイでSRSを受けて、多少なりとも願いや祈りを込めて、サルバトールモニターを近くで見れれば・・・私はもうそれでいいや。
たとえ中途半端だと馬鹿にされても、気持ち悪いと嫌悪を向けられても・・・
そんときゃ噛み付いて、しっぽを打ちつけてやるから!
そんで、近くに来てくれる人にはどっしり構えて、たまに擦り寄る感じでいいのかもね。


どこにでもいる、ある低俗な人間のお話。
その人間はとてもちっぽけでみっともなく、中途半端でどっちつかずな灰色をしているといいます。


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実在するその人間の体験談を借りて、このお話を書きました



理由なんて人それぞれで、何でもいいとわたしは思っています。
わたしがそうだからではなくて、術式だって自分がそれでいいと思えれば何でもいいと思っています。
造膣しないなんて〜みたいに鼻で笑ったり見下す人もいるかもしれませんが、それこそ関係ないし、そこで優劣をつけようとするのは結局優越感に浸りたいだけなんじゃないかと思います。
どちらも結局トカゲではなくて、それぞれモルフが異なるトカゲモドキなのに。
もっともトカゲモドキもかっこよくてかわいいことには変わりないですけどね。
ただね、ここで一つ残念なお知らせが・・・



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サルバトールモニター、というかモニターというトカゲはね・・・



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しっぽが切れても再生しないの!!



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まあでも、同じトカゲということで、ね(笑)



という、無駄に長いお話でしたとさ。

Salut(サリュ)♡