婦人の声が響いた。
「滑舌がよくないあなただけど、ワンワンは上手いじゃない」
余計なことを考えているうちに4人目のインプロが終わったようだ。
滑舌とは舌が滑ると書くらしい。
だがこれは舌がどうのという意味ではないのだ。
語彙のすくない我輩としては多くを語れないが、
「言葉が滑らかにでる」
を滑舌がいいといい、
「滑らかにでない」
を滑舌が悪いというらしい。
だが我輩は、「言葉」がどうのということではないと思う。
「言っていることばの、発音が明確か不明確か」
というのを言うのではないかと思う。
我輩は勿論言語学者でもないし、言葉の専門家でもない。
しかし、人間のおしゃべりを傾聴しているので気付くのだ。
そして、出来るだけ眼を見て聴こうとする。
これは大事なことだ。
ほら、
「目は口ほどにものを言い」というじゃないですか。
「ワンワン」を滑舌として取り上げるのはどうかと思う。
舌が滑らでなくても言えますからね。
我輩の舌は滑るが「レロレロ」なんて言えない。
舌が長いのも災いしているようだ。
舌を動かすときは欠伸をするときと、ハアハアハア息をするときだ。
それに犬の舌には体温調節という任務が課せられている。
だから余計な仕事は出来なくてもいいのかもしれない。
人間も舌を出してハアハアいいながら体温調整すれば面白いだろうな。
こんなことを考えていたら、
またまた同じ人間に、
「ほら、ワンちゃん、また笑ってる」
と指摘され、慌てて誤魔化しの欠伸をして見せた。
この人間は役者向きではないかもしれない。
評論家向きかも・・・
チラリと目を向けると、奴さん、ジイ~ッとこっちを見ていた。
やめて欲しいなァ。
嫌なんだよ・・・犬は横顔を見られるのが・・・
いえ、チェーホフというロシアの作家が、
「結婚申し込み」という短編戯曲のなかで、
犬の自慢話・・・いや、本当はケナシアイをする場面があるです。
一人は、「お宅の犬は下顎がでてる」と言って、
相手を罵倒します。
手前ェの顔をさておいて、
飼い犬の顔を話題にするのには腹が立ちました。
いいえ、我輩の下顎は出ていませんよ。
でもブル系統はたいてい出てますからね。
可哀想ですよ。
「我輩は、自分で言うのもなんですが、どちらかというとイケメンですよ。
昔は美丈夫、ちょいと昔は美男子、最近はイケメン、
あるいは、いけてる男っていうんですか? 」
ありゃ・・・
「先生、やはりワンちゃん笑っています」
また、あいつです。
じろじろ見られるのはまだいいですが、
探るような見られかたって嫌ですね。
要注意人物だ。
続く・・・