「お前みたいな役者は死ね」
こんなことを言われた役者がいた。
彼に電話してみた。
携帯電話を持っていなかったので、
固定電話だ。
「この電話は現在使われておりません」
だったかどうだか正しいメッセージは忘れたが、
こんな風なコメントが耳についた。
「彼は死んでしまったのだろうか」
「死ね!」
と言われてから三十数年後に一緒に芝居をしているから、
勿論、死にはしなかったし、彼は生きて役者をしていた。
彼は役者としてずば抜けた存在感を持っていた。
いい役者だと思う。
彼は好き嫌いが激しかった。
「なァ、豪ちゃんよ、おれはお前が好きだよ」
何やら、
「嫌いにならないでくれ」
と言いたいように聞こえて、
「おれも、お前は好きだよ」
・・・ラブコールを交わしたものだった。
嫌いとなると徹底的に嫌いだった。
それで、
「おれは劇団もやめるよ」
とか、
「行きたくない」
「顔を見るとオエッとなる」
こんなことを吐き捨てるように言うことがあった。
しかし彼は、
「死ね」と言われた演出の悪口一つ言わなかった。
「お前も苛められたろう」
わたしを仲間に引き入れようとした。
友よ・・・生きていてくれ。