この秋9月公演する「母」は、既に18回の上演を数える。
劇団アドックでは不滅のホームワーク作品と位置づけ、
機会を得ては、今後も上演を続けていくことにしている。
今年の公演は「劇団創立10年」の記念作品である。
「母」は、小説家小林多喜二を息子にしながら、
字も読めずに生きてきた母の物語である。
漫画化もされた。
かつて、
「蟹工船」が劇化上演された。
「多喜二、有名な小説家になったな」
と母に言われ、
「母さん、おれの小説なんて、誰も読まなくなる時が来る」
そういう世の中が来ると信じていた多喜二が、
2008年を機に、多くの若者たちに読まれることになろうとは
夢にも思わなかったことだろう。
最近になって、多喜二の笑い顔が話題になりました。
「ねぇ、伊藤さん・・・田口タキさんが102歳で亡くなったって」
「田口タキさん?」
「本物のタミちゃん!」
「えッ、じゃ生きていたんだ」
多喜二が遊郭から見受けした恋人である。
一昨年の12月に主要各紙の記事になった。
多喜二亡き後、家族を支えて東京で働き、
戦後結婚したという。
29歳で拷問の末、多喜二は殺されたが、
それから80年近い年月を生き抜いた。
多喜二が、彼女に何を残したかは定かではない。
母も90近くまで生き抜いた。
母に残したものは、今年9月に上演する「母」の
舞台でつまびらかにできるかもしれない。
わたしの父も母も今はいない。
みな、何も語らない。
しかし、みなの声が聴こえてくる。
その声を何処までひろえるか・・・
聴き取れるか・・・
ぼくらの生き方や在り方が問われるのかも知れない。
その声を求めた旅は既に始まっている。