「おばあちゃんは?」
近所のばあちゃん・・・と言っても、
我輩のちょっと先輩のご夫人から聞かれた。
祖父(じじ)ちゃんや祖母(ばば)ちゃんは
想い出の中でも遥かにページを繰らなければならない。
祖父ちゃんはぼくが6歳の時に亡くなった。
胃癌だったらしい。
祖父ちゃんの亡くなる前に枕元に呼ばれた。
母が、
「ずんちゃんはお前に言っておきたいことがあんなだと」
といった言葉が、今でも耳に残っている。
肝心の祖父ちゃんが死に際に残してくれた
言葉の方は覚えていないが、
後になり、母に聞いたことがある。
が、母も覚えていなかった。
祖母ちゃんが亡くなったのはそれから十数年後である。
祖母ちゃんの死に目にはあっていない。
祖母は字を読めなかった。
「ばばちゃん、不便だろう?」
※ ばばちゃん・・・親しみをこめた呼び方
「読めればいいとは思うけど、
自分の名前は書ける」
それに住所も電話番号も言えるし
不便はないという。
「ただ耳の聞けね人さ、しゃべった時は
困ったけなァ・・・」
※耳の聞こえない人には困った
という。
このばばちゃんが、
石鹸をシャボン、帽子をシャポーといっていた。
「ばばちゃんはフランス語をしゃべってる」
というと、しこたま怒られた。
「おれが字を読めねがらって、バガにすんな」
「バカにしてるわけじゃない」
と、何度言っても分かってもらえなかった。
辞書を持っていっても分かってもらえなかろう・・・
生前にはそれを証明し得る工夫はできなかった。
ばばちゃんは、
「いいか・・・」と真面目な顔で、
「シャボンだのシャポーとか言うなよ。
こんな言葉を使うと田舎者だと思われるからな」
・・・と言っていたのを思い出す。