「明日オーディションに行くんですが・・・」
電話が来た。
「1年ぶりのドラマです」
「いいじゃないか。通ればいいね」
「でも時代劇の女剣士なんです」
お芝居も時代劇などしていないし、
最近は習った居合いも忘れているし・・・
セリフも読まされるらしい。
・・・そういえば、
彼女は初見が苦手だったし、
タイプとして緊張し易かった。
不安で電話してきたというのだが、
誰かに打ち明けて安心したいのだろう。
人間であれば緊張するのは当たり前で、
しない方が可笑しいので、
緊張を楽しめればいいのだ。
そうは言っても、
当事者には毒にも薬にもならない。
だったら、
「緊張して死にそうですので」
蝿のように手を擦って、
「やれうつな、蝿が手を擦る足を擦る」
それで手でも打って、
「はい、よろしくお願いします」
くらい言ってみろ・・・というと、
「それで直りますか?」
「直らないさ」
「冗談じゃないですから」
それで直りますかと聞いてきたように
緊張を忘れたり、しなくなっては駄目なんだ。
僕等の仕事には、緊張することが必要なんだ。
あとは、何の課題を与えられても、
きみがどう演じるかをみたいので、
粉飾した嘘の君を見たいわけではない。
精一杯の君自身でいいのではないか。
ぼくは君はいい女優だと思っているよ。
「ありがとうございます」
の言葉で、電話は終った。
ま、通る通らないは問題ではない。
彼女が、どう成長するかが問題なのだ