電話が来た。
近く幕が開くのに不安だ・・・という。
以前の教え子の一人からだ。
ダブルキャストで、
一方の役者の稽古ばかり多くて、
自分の稽古はほとんどしてくれない。
初日が迫ってきて不安で仕方がない。
「あ、あれを忘れた」
「セリフが出てこない」
「衣裳が見つからない」
こんな夢ばかりを見てうなされるという。
「きみも一人前に近付いている証拠だ」
といってやる。
ただ、相手の稽古ばかりで、
自分の稽古をしてくれないと思うのは
大きな間違いだ。
相手の役者が稽古しているときに
一緒に稽古している意識がなければ
「一人前」もそこ止まりだ。
自分のイメージを相手の役者に
重ね合わせてセリフを言い、
動くことで、自分の稽古にすること。
また、抜き稽古でもいいから
自分の稽古をして欲しいと演出に
申し入れることの二つを直ぐに実行する。
わが劇団でもしばしば問題化するのがこれだ。
「一番に来ているのに稽古してくれない」
「一箇所にひっかかり過ぎ」
・・・だとか、グダグダ言ってくる。
自分達で相談して、
「稽古場を確保するから稽古して欲しい」
と言ってくる者はいない。
「何とかして欲しい」
これだけだ。
自分の役だけを考えるようでは駄目だ。
自分とも勿論だが、すべてとの
上質なコミュニケーションの上に
成り立つのが演劇の世界なのだ・・・