もう一人、制作をやってもらえる人物に、
K氏を挙げた。
すると彼は、
友人のTくんを入れて欲しいと言い出した。
有吉さんは、その決定権をぼくに委ねた。
「伊藤くんに聞いて」
「Tはぼくもしっているし、いいんじゃない?」
これには有吉さんも不思議そうな表情だった。
「伊藤くん、自分の役がダブルキャストになるわよ」
「いいです」
「あなたも人がいいわね」
ぼくの希望する役は、トーマス・ルイスだった。
が、初めから自分の役だとは思っていない。
役がなくなっても、この芝居が出来ればいい。
これが正直な、ぼくの気持だった。
紀伊国屋ホールを一週間キープした。
野沢那智くんの自宅兼稽古場の薔薇座を借りることにした。
民藝という大劇団で芝居をしているつもりだったが、
実際は太陽の恵みや水を与えられて、
ただただ舞台に立っていただけだったことを知らされたのも、
この時だった。
おれは芝居をしていたなんて
おこがましくて言えない自分だった。
有吉さんという著名な作家のおかげで、
「何とかなるだろう」
・・・と、安易な気持から始めた芝居だったが、
本当に何とかなりそうな・・・
いや、とてつもない参加者を集めて、
新劇界始まって以来の舞台になり始めたのだった。
彼女はカトリックのクリスチャンで、
洗礼名はマリア・マグドリア(・・・だったと思う)だった。
(続く)