ブログネタ:お国自慢してください!
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「あゝ、将棋で有名な・・・・」
たしかに将棋の産地として名高い土地であるが、
サクランボやりんご、ラ・フランス、ブドウも美味しいし温泉もある。
「・・・・いいですねェ!」
・・・と人はいう。
山形県天童市である。
ところが僕にとって、それほどいい所かというと…そうでもない。
僕が生まれたのは、今は天童市の一角になっているが、
当時は隣村にあたる貧乏な村だった。
土壌は砂利交じりのために保水力はなく、
米は取れず、昔から果実農家が多かった。
山寺で名高い立石寺付近を基点として流れ下る立谷川は、
清冽な水を地下水にして湧泉地帯をつくった。
それは水だけは豊富な土地柄で、
村の一軒一軒に池があり、
春夏秋冬、絶えることなく湧き出る清水に恵まれていた。
村の名も、その湧泉に因んで清い池と書き、
「しょうげ」と呼ばれていた。
僕が生まれ育った母の実家は、
その村の中ほどにあった。
水は豊富だが貧乏家ばかりだった思い出がある。
それでも、うちはいい方だったのかもしれない。
・・・が、近所に底辺の家があった。
コテコテと垢にまみれた着物を着た兄妹のきょうだいがいた。


父親が、どこかの畑から大根を数本盗んだとかで、
村人の前で吊るし上げをくい、
子どものいる前で足蹴にされているところを見たことがある。
妹が母親にすがって泣いていた。

「こいづらに、きんな(昨日)から何もかしぇで(食わせて)ねェがら」
と、蹴られた父の声を耳にした。

翌日僕は、食い残したタクアンと戸棚にあった豆を懐に入れて持っていった。
すると兄妹は豆を生で口に入れて、二、三度噛んで吐き出した。
「豆だぞ。なして、かね(食わない)?」
と叱りつけたが、自分も口に入れてみて、生臭くて食えないことが分かった。
「悪かった」と謝り捨てた。(家に持たせればよかったが、そこまでは考えられなかった)
母の実家では、豆が減っているのが分かり、
「どうしたか」を聞かれ、植えた…と言ったが嘘がバレて大目玉を食った。

だが、何処へ持っていったかは言わなかった。
しかし大人の世界は甘くはなかった。
僕が、村八分になっている家の子どもと遊んでいることが分かってしまった。
「あの子らと遊ぶと貧乏がうつるんだ」


・・・こんなことを言われて、その日以来遊ぶのを禁じられた。
それ以後、数回(2~3回)だと思うが、
こっそり遊びに行ったのを覚えている。
兄は、そのお礼だと言って、妹を寝かせて裾をはだけて、
「ここ触っていいぞ」
と割れ目に僕の手を持っていった。

自分にも妹がいたが、同じような年齢の女の子の身体に手を持っていき、
震えるような感動を覚えたのを忘れていない。
ただ、そっと触っただけだ。
しかし、このことから、「妹を大事にしなければ・・・」
そんなことを思ったのを今でも覚えている。
その後、家族はどうしたのだろう・・・・
何処かに行ってしまったに違いない。
僕の記憶には、こんもりと盛り上がった妹の身体の一部が目に焼きつき、
兄貴の「お礼だ」と真剣に懇願するような表情が最後だったようにしか残っていない。
その後、天童市に引っ越して、母は林檎づくりをし、
埼玉にいる父から送ってくるさつま芋の苗を植え、
近所の子供等を集めて芋をふかしてはご馳走をしていた。
先日在京天童会で会ったかつての友人が、
「お前の家で食べさせてもらった、さつま芋の美味さは、今でも忘れない」
と言って、「お前の母ちゃんは優しかったよなァ」と涙を浮かべていた。
・・・だが、その数年前、「貧乏がうつる」と言っていたのも母だった。
思い当たることは、母の実家に厄介になっていたので、
叔父や叔母の手前があったのかもしれない。

人を判断するのに、一様ではいけないといういい例だ。
苦しい思い出の多いふるさとだが、
決して捨てられない思い出も沢山ある・・・・

今、僕は…ふるさと天童の観光大使になっている。
・・・が、ふるさとを、単なる観光の地として紹介しきれない、



重くても下ろせない、ずっしりとした荷物を背負わされているように思えてならない。
これだけは、決して次の世代に渡したくない重荷なのである。
お国自慢の裏側に、このような重い思いも隠されている・・・・・
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重荷の話だけでは悲しすぎるので、一日置いて書き加えたい。
天童には沢山の友人がいる。
帰ると、親戚には行かなくても友人と会うことが多い。
一時期、「ふるさとは冷たい」と言ったことが、友人達の話題をさらい、
僕の演出した作品の中学公演を4ステージ組んでくれたこともある。
山形から北へ数キロ…立谷川を過ぎると天童である。
春にはサクランボが実り、りんごの花が咲く。
納豆餅と玉こんにゃく、アカエイをもどして煮込んだカラカイは祭りの定番料理だ。
蕎麦も美味いし、ダンゴも美味い。
♪ 花の山形 紅葉の天童
・・・・花笠音頭である。この中で、
♪ めでためでたの若松様・・・とあるが、
この名刹、若松寺も天童にある。
開山1,000年を迎えたのも今年のはず。
みなさん…どうが天童さ、行ってけらっしゃい(行って下さい)。
イエィ(良い)どご(所)だはげ(ですから)。
霞ヶ関に郷土館「ゆとりの郷」があるので、都会のみなさんもチョッと立ち寄って欲しい。