昨夜遅く電話があった。
何処かの局の環境番組を見てくれたのだという。
高校時代の同級生だった男だ。
高校は、当時神田錦町にあった東京電機大学高等学校だ。
彼は大学を経て一流会社に・・・
片や僕は、方向転換して芝居の道・・・
1970年代に入ると豊かな国を目指して、
アメリカに追いつけ・・・
自動車業界や電機業界は目覚しい発展に向かった。
彼も世に請われ、世界中を駆け回ったのだろう。
そんな中で催されたクラス会で彼に会った。
出世頭の彼から苦言を呈された。
「君がやっているNHK教育テレビ “みどりの地球” を見たよ。
あれは人間が当然持っている幸福志向に水を差す番組だよ。
時代に逆行しているばかりじゃない、よく生きようとする人間本来の志向に
蓋する内容だ。利便性や豊かさを追い求めなければ進歩はないんだよ」
要約すればこんな内容だったことを覚えている。
1975年から始まった、NHK教育テレビ初(…だと思う)の環境番組で、
キャスターをし始めて数年後だったと思う。
たしか “ゆとりある教育” が取り上げられた頃だったと思う。
ゴミの問題、海洋汚染の問題、二酸化酸素の問題…食生活や住環境と
地球環境を扱った作品だった。
米国のカール・セーガンや他の科学者から
環境破壊に危機が発せられる前だったと思うので、
先駆的な番組だったと思う。
「きみは曲がりなりにも電機について学んだ人間じゃないか」
それが科学の発展に逆行するような番組に出演していることは、
可笑しいじゃないか…こんな話だった。
これに対して、何を答えたかは覚えていない。
あれから凡そ30…、彼からの電話だった。
「だいぶ前、君がやっていた番組があったね」
この話から始まって、「あいつは死んだか・・・」などの四方山話も織り交ぜながらの数十分・・・
猛暑、大雨などに襲われる毎に聞く、
「今年はちょっと異常気象ですね」
この言葉が、毎年のように繰り返されることは、
環境は年々悪化し続けていることだ…ということ。
「しかし、あの時は、あれしか選択の道は無かった」
というのだ。
だが、「逆行するといわれるような番組を、
せっせせっせと作っている道もあった」
ことも確かだ。
今はどうだろう。
「今こそ、しなければならない、
今歩かなければならない道は、
厳としてありはしないか・・・」
受話器を置き、
「では、何を?」
環境悪化を叫ぶのはいい。
だが、それを防ぐには何が必要かを
もっと具体的に示せないか。
「未来の幸せのために」
などと言うのは簡単だ。
具体的な提言が必要ではないのですか・・・
えッ?・・・あのような番組をやっていたんだから、
何か提言くらいできるだろうって?
う~ん、
(小さな声で)だから、芝居などやっているのかなァ・・・
今度芝居をやる時には、彼も来てくれるそうだ。