・・・F・・・

 

仕事が終わって帰ろうとした時

暗闇から

「よっ」と声をかけられた。

小柄な男性。

 

大野くん!!

 

「ちょっといいかな・・・

その・・・ちょっと付き合わない・・・」

 

少しのびた髪と

髭。

遠慮しがちにかけた言葉とは裏腹な

鋭い目。

少し怖い・・・。

 

だから俺は断れなかった。

 

 

 

 

おじさんの多いごちゃごちゃと賑やかな居酒屋の

狭い壁際のテーブル席で向かい合って座る。

 

ビールを頼んでつまみを頼んで

飲み始めたけど

無言。

 

うん、多分あの事だと思うけど

俺からは言わない。

 

ようやく

大野くんが話始める。

 

「俺さ、

今、時間あるじゃない。

意外とネット観るんだよね。

ツイッタとか・・・」

 

やっぱりね。

 

「あの、路チューのことですよね。

寸止めしましたよ。」

 

「いや、寸止めったってなんだよ。

あの嬉しそうな顔。」

 

「俺、そんな顔してました。」

 

「いや、ニノが・・・。」

 

そう言って大野くんはまた黙ってしまった。

 

俺も観たよ。

二宮くん嬉しそうな顔だった。

だから俺も嬉しかった。

 

あのひと

いいんだよ。

面白いし優しいし頭いいし話上手だし

かわいいし

 

「大野くん、最近二宮くんに会ってないでしょ?」

 

「・・・・」

 

「二宮くん

寂しがり屋でかまってちゃんなのしってるでしょ?」

 

「それは・・・・」

 

俺はスマホを取り出して

操作する。

 

だって

ほっておく大野くんがわるい。

だってあのひとやばいよ。

俺をどんどん引き付ける。

俺はもう・・・

 

電話がつながる

『ふぅまぁ~な~に?どした?』

俺はそれには答えないで

 

「あなたが会わなきゃいけないのは俺じゃないでしょ。」と

大野くんにスマホを渡した。

 

『ふうま?』

心配そうな声が小さく聞こえる。

 

「あ、ニノ・・・」

 

『え、大野さん!?』

 

すぐにわかるんだね。

 

それから

大野くんと二宮くんの

内緒話のような会話が続き

話し終わった大野くんが

「ありがと」と俺にスマホを返した。

 

「会う約束できました?」

 

「ああ、これから・・・」

 

「ここに来ます?」

 

「いや、別の場所で・・・。」

 

ですよね・・・

そりゃ二人で会いたいよね。

 

俺たちは

残っていたビールだけ飲みほして

店を出た。

 

「じゃ・・・。ありがと。」

 

そういって大野君は急いで人混みに消えて行った。

 

ちっ・・・

俺って

何やってんだか。

 

まあ

 

仕方ない

 

そういう事なんだから。

 

 

俺は

実は

あれ

寸止めじゃなかったんだけど

 

それくらいは

許されてもいいよね。

 

俺は

いつだって

あのひとに

会えるんだから。