・・・・N・・・

 

グリースをつけて

今度はコームで撫でてもらった。

 

「こんな短くてもできるんですか?」

 

「長い方がかっけーけどな、短くてもできる。」

 

櫻井さんの手が優しく俺の髪を触る。

 

鏡に変わっていく俺が映る。

そして

櫻井さんの顔も映る。

きりっとした目元は俺を見るときは

優しい・・・。

そういえば最初はかわいい目だと思ったんだっけ

そんなことを思っていた時、

不意に櫻井さんが言った。

 

「二宮、俺、もう番長はやめようと思って。」

 

「え!!」

 

俺が慌てて振り返ろうとすると

 

「動くな!髪が乱れる。」

 

「はい!」

 

まっすぐ鏡を見たまま

俺は動揺した。

 

「俺さ、留学するんだ。」

 

「・・・え・・。」

 

留学?留学!!それって

留学って海外に行くってこと?!

 

また振り返ろうとして

櫻井さんに頭を押さえられた。

 

「だから、動くなって。」

仕方なく

俺は鏡越しの櫻井さんの顔を見つめた。

 

 

「留学って言うかさ、

大学はアメリカの大学に進学するつもりなんだ。

ちょうど親父が向こうで仕事するんで

卒業したらすぐに行く。」

 

櫻井さんは

俺の髪を整えながら

淡々と話した。

 

櫻井さん櫻井さん

留学・・・・

アメリカ・・・

卒業・・・

番長やめる・・・

 

じゃあ

俺は?

 

もう櫻井さんと

 

あ、え、な、い・・・?

 

櫻井さんは

淡々と俺の髪形を整えていく。

 

俺はもう頭の中は真っ白で

目の前は真っ暗で

鏡の中の自分をぼーっと眺めていた。

 

そんな・・・

そんなこと

今言う?

 

俺は初めてのリーゼントを作ってもらえて

嬉しくてウキウキしていたのに・・・

 

だって俺は

いつか櫻井さんに勝てる男になって

櫻井さんに認めてもらって

一緒に・・・

一緒に・・・

 

・・・・

 

俺たちは

年が離れすぎてた

そんなこと考えてもいなかった。

 

俺が高校に入るころ

櫻井さんは

もう卒業で

 

俺は・・・

 

ドライヤーを当てて

スプレーをかけて

俺のリーゼントが完成した・・・。

 

「どうだ。

めちゃくちゃ似合うな。」

 

櫻井さんが鏡越しの俺と目を合わせた。

 

 

「俺の後は上田が就任する。

おまえ・・・・

上田を盛り立ててくれるか?」

 

「い・・・や・・で・・・す。」

 

つーーっと

俺の目から涙がこぼれた。