・・・N・・・

 

俺は櫻井さんに勝つ!

 

そして

 

櫻井さんのキスをもらう。

 

何度か

戦いを挑み

負けた。

 

だけど

負ければ負けほどに

櫻井さんが好きになる。

強い櫻井さんが好きなんだ。

 

そして

何度目かの挑戦に敗れた後

 

「家に来ないか。」

櫻井さんが俺を誘った。

 

「・・・はい。ありがとうございます。」

戦ってふらふらだったけど

俺は櫻井さんの後をついて行った。

 

櫻井さんの家を訪れるのはあの日以来2度目。

櫻井さんにキスをもらった

あの日以来・・。

 

疲れも少し回復し

俺はなぜ今日呼ばれたのか

考えてみた。

 

何か話があるのか?

もしかしたら

もう俺とは縁を切りたいのか?

そんな考えが頭をよぎり

不安になった。

 

 

 

櫻井さんの部屋は

あの日と変わらず俺を心地よくさせる。

灰皿は吸い殻もなく

この間と同じように黒く光っていた。

「まあ、座れ。」

櫻井さんは腰をおろし

タバコに火をつけた。

「失礼します。」

俺は櫻井さんの向かいに座った。

「この前は悪かったな。

お前はまだ中坊だった。」

 

櫻井さんは今日はタバコを勧めない。

 

タバコを吸わせたことを謝っているのか、

それともキスしたことを謝ってるのか

俺はどっちなのかわからなかった。

 

「おまえ・・・

リーゼントしたことあるか?」

唐突に櫻井さんが言った。

「・・いえ・・ありません。」

 

「ちょっとしてみないか?」

 

櫻井さんは手を伸ばして

カラーボックスから黒いケースを二つ取りだした。

ひとつはコームやヘアオイル、ヘアスプレーなどが入っていて

もう一つはドライヤーが2~3個入っていた。

 

櫻井さんが

ドライヤーのケースから

板を取り出して

それを三面に開いて俺の前に置いた。

鏡だった。

 

櫻井さんは俺の後ろに回り

ブラシで俺の髪をなでた。

 

「さっき、戦ったけど

サラサラだな。」

 

「す、すみません。ありがとうございます。」

 

櫻井さんに

髪をとかしてもらうなんて

申し訳なく思う気持ちに反して

なんだか嬉しく思ったりもして

ドキドキと心臓が高鳴った。