季節はめぐり、あれから一年が過ぎた。
夜の喫茶店「ミネルヴァ珈琲」は、
今も変わらずランプの灯を揺らしている。
高瀬のいたテーブルには、夏子。
その表情には、かつての迷いはもうない。
扉のベルが鳴り、
ひとりの若い女性が入ってきた。
「……あの、占いをお願いできますか」
夏子は微笑み、頷いた。
「はい。こちらへどうぞ。」
彼女は静かにカードを並べ、そしてホロスコープを見つめた。
その手の動きは、かつての高瀬を思わせるほど落ち着いていた。
カードに浮かび上がったのは、“旅立ち”の絵柄。
夏子はそっと口を開いた。
「大丈夫。あなたの中にも、ちゃんと道を照らす星がありますから。」
ランプの灯が、二人の間でやさしく揺れた。
その瞬間、外の夜空に流れ星が走る。
夏子は思わず空を見上げ、
小さく呟いた。
「先生、見てますか……?」
窓の外の星は、
まるで返事をするように瞬いていた。
ママがカウンターの奥から静かに微笑む。
「ねえ夏子ちゃん。
今日もいい“星読み”だったわね。」
夏子は照れくさそうに笑いながら、
ランプの灯を少し明るくした。
「ありがとうございます、ママ。
……このランプの光、まだ輝いています。」
ママはゆっくりとうなずいた。
「灯(あかり)がある限り、人は迷わないね。」
その光を見つめながら、ママの脳裏に静かな記憶がよみがえった。
夏子を占い師として目覚めさせるため――
高瀬と南雲が、密やかに仕組んでいたことを、
彼女は誰よりもよく知っていた。
夏子はカップを拭きながら、
そっとランプに目をやった。
その灯は、まるで高瀬の声のように、
静かに、やさしく店を包んでいた。
***
夜は再び訪れ、
誰かがまた扉を開ける。
“星を継ぐ者”の物語は、これからも静かに、ここから始まっていく――。
完

