『もしもし?』
『……っ…まい…やん…。』
『すぐ行くよ。待ってて。』
私と七瀬を繋ぐのはこの電話
世間はようやく訪れた春の陽気に包まれた日曜日
たぶん今この瞬間に急いでいるのは私だけ
「七瀬?」
「っ!まいやん…っ…。」
私の目の前にいるのはベッドの片隅で小さく座る華奢で今にも消えてしまいそうな女の子
縋るように手を弱々しく伸ばして震える声で私の名前を呼ぶ
「大丈夫だよ。七瀬。」
泣きじゃくりながら自分を卑下する言葉を繰り返す七瀬を落ち着くまで抱きしめるのが私の役目
七瀬は愛を知らない
私と七瀬は幼馴染
少し離れるのも嫌がるほど私たちは何をするにも一緒で幸せな日々
七瀬の5歳の誕生日
お祝いをするために私の家で七瀬の両親を待っていた夜
鳴り響いた一本の電話がその全てを奪った
七瀬の両親が交通事故で亡くなった
その後、七瀬は大阪の親戚に引き取られ、私たちは離れ離れになった
2年前の春、東京に戻ってきた七瀬
高校1年生が東京で一人暮らし
それに違和感を覚えながらも、再会した七瀬は大人になっていたけど、少し子供っぽさも残っていて恥ずかしがるように笑う女の子
あの頃と同じ七瀬だと胸を撫で下ろした
1ヶ月後、私のスマホが震えた
七瀬からの初めての電話で少し緊張しつつ耳に当てる
聞こえてきたのはさっきと同じような泣いている七瀬の声に動揺が隠せない
後から聞いた話だと、大阪の親戚は七瀬に良い顔をせず、邪険に扱い、学校にも馴染めなかった七瀬はいつもひとりぼっちだったらしい
高校入学のタイミングで経済援助はするが家から追い出すように七瀬を東京へ戻した
それでも七瀬はいつも笑っていたから
…何も気づけなかった
「…っ…まいやん…ごめんっ…ごめんね。」
「七瀬。謝らないで。
いつでも側にいるから。」
泣き疲れて腕の中で眠る七瀬
目の周りが赤くなっていて胸が締め付けられる
柔らかい栗色の髪を撫でれば少しだけ口角が上がる
愛を知らない七瀬に愛をあげたい
電話1つですぐに行くから
辛い時、私が守るから
誰かが必要な時はいつでも呼んで
七瀬はどこにいたって1人じゃないから
希望がなくなったように感じたら、私の腕に飛び込んできてよ
そしてまた、私の大好きなあの笑顔を見せて
電話1つですぐに行くから
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
テーマ曲:「One Call Away」by Charlie Puth