「素敵な人だったよな~。」
碑石がある場所まで歩きながら私は一人そう呟いた。
「あんな素敵な人、もう二度と出会えないかも。」
そのせいなのか何なのかはわからないが、もう30歳を過ぎてだいぶ経つが『結婚』のけの字も見えてこない。一人だけ、3年くらいお付き合いした人がいたけれど、私が踏ん切りをつけられなくて、去って行ってしまった。
前に進まなきゃ、とはわかっているんだけどね、と私は一人自嘲気味に笑った。
そんなことを考えているうちに、碑石の前に着いた。
その前には、土方さんのファンからの花がたくさん手向けられている。彼は亡くなって何年も経つ今でも人気があるみたいだ。
だから、私が来たこの瞬間に他の誰ともかち合わなかったのは、もしかして運が良かったのかもしれない。
「土方さん…今日が私の誕生日です。あの時、何を考えてくれていたんですか?」
静かに手を合わせながら、私は言った。吹っ切っているつもりだったのに、込み上げてくるものを止められない。
「…っ。土方さん…もう一度、会いたいよ・・・。」
すると、その時。
急に生ぬるい風が吹いたかと思うと・・・
「きゃぁぁぁ!」
激しい音と共に眩しい光が辺りを包んだ。
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思わず目を瞑って、静かになった頃そろそろと目を開けると・・・
「え・・・?!」
目の前にあったはずの碑石や花束は消え、まるで映画のセットのような幕末の街並みが広がっていた。もちろん、通りを歩く人の服装も皆着物である。
「嘘…私、またここへ来てしまったの?」
戸惑いと喜びが混ざったような感情が湧いてきて、私は呆然としてしまった。すると、頭の中に優しげな声が鳴り響いた。
『これは、あなたへの誕生日プレゼントです…今から5時間だけ、この世界で過ごす時間を差し上げましょう。』
「あ、あなたは誰?」
『私は…“時を統べるもの”。午後6時になった瞬間、あなたはまた現実の世界へと戻されるでしょう。』
「え…」
『それまでどう過ごされるかは、あなた次第ですよ。』
「…!」
そう言うとプツッと通信が切れるように頭の中での声は途切れ、こちらからの問いかけにも答えることはなかった。
「…っ!探さなきゃ…。」
再びのタイムスリップ。たった5時間。誕生日プレゼント。分からないことばかりだけど、神様がこの機会をくれたんだとしたら、早く…あそこへ。
あの人の元へ・・・!
「はぁはぁはぁ…。」
こんなに全力疾走したの、何年振りだろう。私は記憶を頼りに京の街を走り、目的の場所に辿り着いた。心臓がどきどきしているのは、走ったせいなのか…もうすぐ彼に会えると思うからなのか…わからない。
「…中にいるかなぁ?」
門から中をのぞき込んで様子をうかがった瞬間…
「あれ?君は…」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきて、振り向くと…
「お、沖田さんですか?」
一番組隊長の沖田総司さんが立っていた。隊服を着ているから巡察の帰りなのかもしれない。
「ん、総司?どうしたんだよ~…って、お園じゃん。どうしてここに?半年くらい前に郷里に帰ったんじゃなかったのか?」
平助君もいたみたい。
「だよね~。あの鬼副長さんがますます鬼になって…僕に当たり散らしていたっけ。僕はただなごませてあげようと思って、墨をようかんに替えたりしていただけなのに。」
「お前、あの頃の土方さんにそんなことしてたのかよ。…恐いもん知らずだな。」
は~と呆れたようにため息をつく平助君と飄々と土方さんへの悪戯話をする沖田さん。それはそれで懐かしくって嬉しいんだけど、
「あ、あのっ!その土方さんは今どちらに…?!」
早く彼に会いたい。今の私には時間がないんだもの。
「多分部屋にいるんじゃねぇか?」
「うん。でも今日は、朝からいつもにも増して機嫌悪かったからね~。行かない方がいいかも…よ、ってあれ?」
沖田さんが言うのを最後まで聞かずに、私は屯所の門をくぐって、彼の部屋を目指した。部屋の前まで行くと襖が少し開いている。
私は逸る気持ちを押さえて、すっと襖に手を伸ばした。
すると、