「千鶴ちゃん…左之はなぁ、新選組を離れてからもずっとお前のことを心配していたんだ。お前は自分のことを後回しにして無理をしすぎるところがあるから…体を壊していないか、とかって。」



「…っ。」



「…あの日。本当は俺達は一緒に宇都宮へ行くはずだった。でも直前になってあいつ、大事な用が出来たって言って江戸へ戻っちまって…。かっこつけすぎなんだよ、あいつはいつも。・・・きっとさ、千鶴ちゃんの故郷の江戸を…守りたかったんだと思う。」



永倉さんはそう言って、ぐしっと鼻をすすって、泣き笑いのような顔をした。



その言葉を聞いて、私の目から…今まで全く出てこなかった涙が堰を切ったように溢れ出した。



原田さんが私のことをそんな風にいつも想っていてくれていたなんて…。離れていても私のことを命を懸けて守ってくれてたなんて…。



「原田さ…ん・・・っ。」



拭っても拭っても、涙が溢れて止まらない。ずっとずっとため込んでいた涙が、ようやく外に出てきたんだとわかる。



「…ふぇ・・・ひ…っく…。」



いつまでもしゃくりあげる私を見ながら、永倉さんはしばらく何も言わずにその場にいてくれた。そして、永倉さんがそっと私の側へ寄ってくる気配がして…その広い腕の中に私を包んでくれた。



「千鶴ちゃん…。」



私は永倉さんの胸にしがみつき、ますます声をあげて泣いた。『原田さん、原田さん』と言いながら…。



永倉さんはそんな私の頭を黙って撫で続けてくれ…その温かさと心地良さで、私はだんだん落ち着くことが出来た。



「すみません…なんだか、取り乱しちゃって…。」



「い、いや…いいんだ…泣けねぇよりは泣いた方がいい。でもな…」



永倉さんは頭をかきながら言葉を続ける。



「泣くだけ泣いたら…その後は、笑ってくれよ、千鶴ちゃん。きっと・・・左之もそれを望んでる…。」



「永倉さん…。」



「あー…なんだ?上手くは言えねぇけど、左之も俺も昔っからお前の笑顔が、す、好きだったんだよ。だから…」



すぅっと息を吸い込んで、



「千鶴ちゃんの側には俺がいるから。泣きたい時は、この胸を貸してやるし、上手いこと言えねぇけど、話を聞いてやるくらいだったらできるし…。前に話した妹としてじゃねぇぞ、これは。俺は、お前が・・・」



そう言う永倉さんの気持ちが分かって、私は思わず言葉を挟んだ。



「でも!…私は今でも、原田さんのことが・・・。」



そんな私に永倉さんはふっと微笑んだ。



「…わかってる。お前が左之を忘れられねぇってんならそれでもいいさ。むしろ、ずっと覚えていてやって欲しい。そしたら、あいつはずっとお前の心の中に生きていることが出来るんだからな。…もちろん、俺も忘れねぇ!」



永倉さんの優しさにじんわりとして、また涙が溢れそうになる。



「ずっと・・・三人で一緒にいようぜ。」



にかっと笑う永倉さんの隣に、原田さんがいるような気がした。



『仕方ねぇなぁ、そんなに泣いて。笑ってくれよ、千鶴。こんな時だからこそ。新八は馬鹿だがいい奴だってことは俺が保証するからさ。新八になら…安心してお前を任せられるってもんだ。』



昔のように、永倉さんの隣にいて、私が大好きな優しい笑みでそう話してくれているような気がした。



「…っぅ…ひっく…。」



目の前にいる永倉さんの笑顔につられて、私は泣き笑いのような顔になった。



『原田さん…今だけは許してね。この涙を流し終えたらちゃんと笑うよ。



 いっしょうけんめい、笑うから。



原田さん…だから、心配しないで…ゆっくり休んでね・・・。』





私は袖で涙を拭い、永倉さんの着物から手を離し、顔を見上げた。



「永倉さん…本当に、ありがとうございます。」



「…ん、あぁ…別に礼を言われることじゃねぇっつうか…。」



ぽりぽりと額の横をかいて照れている永倉さんは、なんだか新鮮で可愛い、と思った。



「ふふふっ。」



「・・・!」



だから、もう何年も笑えなかった私から素直な笑いがこぼれたのは、紛れもなく目の前にいるこの人のおかげだと思う。そして、私はそっと永倉さんの胸に頬を付け、体を預けた。



「千鶴ちゃん…。」



「これからもたくさん笑いましょうね…三人で。」



「…あぁ!!」






☆終わり☆