「何だ?もっと説教をして欲しいってのか?」
「あ、いや。そうじゃなくて…。」
後ろでこそこそと、「どうする、今行かれたら総司が…。」と左之と新八が耳打ちし合っている。
「そうだ!ついでにこれも教えてくれよ。」
平助が取り出したのは、羽子板と羽根だった。
「いまいち使い方が分からなくてさ~。」
内心ドキドキしながら、平助は言う。
「羽根つきか…ふっ。懐かしいな。おい、新八。この部屋に筆と墨はあるか?」
「あ、あぁ。確かあったと思うが。」
新八がごそごそと物入れを漁る。
「なぁ、土方さん、そんなもの何に使うんだ?」
左之が疑問に思って尋ねた時、
「…負けた人の顔に落書きをするんだよね、土方さん。」
総司がそう言いながら顔を出した。そして、三人に「もう終わったよ。」と目くばせをする。
「総司か。左之、これはなぁ。この板で羽を打ち合って、床に落とした者が負け。勝った者は負けた者の顔に…こう書くんだ!」
新八が出してきた筆と墨で、総司の顔に大きなバツ印を書こうとした…が、寸でのところで避けられた。
「ちっ。」
「もう。僕はまだ負けてませんよ。なんなら一勝負しますか?…昔みたいに。」
「俺が勝つに決まっているがな。」
「わかりませんよ~。」
そう言って二人は、羽子板と羽根を持って庭に降りた。朝からの日差しで雪はすでにとけていた。
「お~い…左之。あの二人今日は仲良いな?」
「いや…きっとこれは総司の企みの一つだろうぜ。」
「総司が土方さんの部屋に何を仕掛けてきたのか…この勝負が終わったら…わかるよな。」
「触らぬ神に祟りなし、だ。よーし、飲み直そうぜ。あの二人の勝負でも眺めながら。」
「だな。」
三人は役目も終わったことだし、とほっとした様子で縁側に酒を持ち出し、総司と土方の勝負を見物し始めた。
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「よっ。それっ!」
「うわぁ。」
先に一本取ったのは土方だった。筆を手にし、総司の頬にバツを書く。
「ちぇ。次は僕が取ります。」
「ふんっ。誰が取らせるか!」
勝負は三本勝負。先に二本取った者の勝ち。だが、次に取ったのは、
「やったぁ!」
「くそっ。」
総司だった。土方の頬にバツを書いて、子どものように喜んでいる。
「土方さんもさぁ、日頃役目だ仕事だなんだって言ってるけど、こうして熱くなるところ、かわんねぇよな…あの頃と。」
そう。試衛館にした頃は、皆でこうして良くばか騒ぎをしたものだった。京に来て、新選組っていう役目が出来て、京の町の為に働けているのは良いのだが…土方さんが以前と全く変わってしまって、こうしてつるんでくれなくなったのだ。
それも仕方のないことだが。
それゆえ、こうして土方さんも交えて騒げるのが、なんだか懐かしいような嬉しいような。
「良いぞ~総司頑張れよ~!」
「土方さん、負けんな~!」
酒を飲みながら、こうしてやいのやいの言えるのも…今日が正月だからか…。年に一回くらいこんな日があってもいいよな、と思う左之なのであった。
と、そうしているうちに、パーンッとどちらかが突いた羽根が地面に落ちた。
「お。どっちだ?」
「土方さんだ!!」
どうやら勝ったのは土方のようだ。
「どれ…お前には、これがふさわしい。」
そう言って、総司の額に大きくバツ印を書く土方は、何だかとても嬉しそうに見える。
「…いつも、総司に悪戯ばかりされているもんな、あの人。」
「忘れてたがあの人の部屋には今日も…。」
どうりで負けた総司が
「くそぉ~~。」
と言っているわりには笑っていて、あまり悔しくなさそうだ。それもそのはず。新年初の悪戯を部屋に仕掛けていたのだから。
「おい、平助。これはこうしてやるんだ。わかったか?」
「あ、あぁ。わかったよ、土方さん。」
満足したのか、羽子板を平助に預けて、
「じゃぁ、何度も言うが。正月だから多少の酒は黙認するが、羽目を外しすぎるなよ!」
そう一言釘を刺して、土方は部屋へと戻って行った。何が待ち受けているとも知らずに…。