「…なんか、急に寒気が。風邪か…。」
もう少しで今日の仕事が終わる。そう思っていた時、
「土方さん、いらっしゃいますか??」
襖の向こうから声が掛けられる。この声は、千鶴か。
「どうした?…何かあったのか?」
「何だか、永倉さんたちが…(あれどうしたんだっけ?)。えッとですね…沖田さんが、新八さんを止めないとって…。」
焦っているのか千鶴の言葉はいまいち掴みにくい。だが、先ほどの光景を見ていたので、新八たちがまた何かをやらかしたのだろうと想像がつく。
またか…。
いくら元日で全員が非番とはいえ、あいつらが羽目を外しすぎるとろくなことがねぇ。ことによっては一つ、お灸すえとくか。
「わかった、見に行く。お前は部屋に戻っていろ。」
「わかりました。」
++++++++++++
土方さんが出て行った部屋では…
「よしっ。これはここに結んで…と。」
総司がせっせとあるものを仕掛けていた。
「よいしょ。これはこの辺かな。」
千鶴が土方を連れ出し、あの三人があの人を足止めしてくれているうちに…その罠というか総司の可愛い(?)悪戯は設置された。
「できた。…どんな顔するかな~楽しみだなぁ。」
それから元の通りに襖を閉め、頃合いを見て新八たちに合流するため、部屋の近くでその様子を伺った。
「ちょうど雷が落とされている時だと、とばっちり喰うからね♪」
なんの悪気も、悪びれもないのが、総司だった。面白いものを見ているのが好きなのである。
++++++++++++++
問題の部屋へ近づくと、新八や左之、平助の大きな笑い声が聞こえる。あいつら、こんな真昼間から酒でも飲んでいるんじゃねぇだろうな。
そう思って、襖をさっと開けた。
「…うぉ。土方さん!」
「思った通りだな。」
少し俯いたその前髪に隠れた瞳がキッと光ったように見えた。
「お前ら…いったいこれはなんの騒ぎだ!!いくら休みだからとはいえ屯所で酒盛りなんてしやがって…!!」
「お、俺は悪くねぇからな。新八っつぁんと左之さんが早く飲もうって言い出して。」
「誰が言い出したかなんて聞いちゃいねぇ。」
平助の言い訳はぴしゃりと封じられる。そして、部屋の様子がおかしいことに気付いた。置物はあちこちに転がっているし、奥の襖や障子はいくつも穴だらけだ。
「おい、左之。これは…いったいどういうことだ?」
「それはよぉ~…!」
言い訳しようとした左之はぴんと閃いた。総司の言う時間かせぎの為…そして何より、面倒なお説教から逃れる為の方法を。
「土方さん…こまは出来るか??」
「んぁ?」
「いや、俺達たまたまこのこまを見つけたんだけど、誰も上手く回せなくってよ。土方さんならできるんじゃねぇかって思って…よ。」
「お前、話をすり替える気か?」
「い、いやいや。そんなんじゃねぇよ。部屋をこんなんにしちまったのは悪かった。だけど、こまさえ上手く回せていたらこうはならなかったんだ。」
新八も平助も赤い顔をして、そうそうと頷いている。ふぅとため息をついて…
「…貸してみろ。」
こまを手に取った。やるのは何年振りか…だが。
「やっ!!」
しゅるるると軽快な音を立てて、畳の縁でこまが回っている。
「土方さん…す、すげぇ~~。」
三人とも、感嘆の声を上げる。ふん。悪い気はしねぇ。
「このくらい序の口だ。」
そう言って、次のこまを回しながら投げ、自身の手のひらの上で回した。
「おぉ~!」
「そらよっと。」
それを宙に投げ、今度は手の甲だ。それを見た三人は、すごいすごいと拍手喝さいだ。ふんっと笑みをこぼす。
「まぁ、このくらいできるようにならねぇとな。それから…壊したものは責任もって直しておけよ。」
「あ、土方さん!」
それから、そう諭して出て行きそうになるので、平助が慌てて呼び止める。