元日の朝から文机に向かうのはこの人だけだと誰もが思う。が、やらねば一向に、この返事を出さねばならない文の山がなくならないのは事実。



「よし、こっちはこれでいいな。あとはそこの山を片付けて、今日は終いにしておくか…。」



と、手を伸ばしたとき、



ドドドドドー!!!

「どわ~~~~!!」



「何事だっ!!」



すさまじい物音と叫び声で、思考を邪魔され、廊下との境の襖をすぱんと開ける。



そこにいたのは…



「おい新八、こんなところで何をしている?その手に持っているのは…?」



「あ、ひ、土方さん。邪魔してすまねぇ。凧揚げってやつらしいが、いまいちやり方が分からなくてよ。ここの廊下が一番まっすぐで長かったから…その…。」



「お前は…凧揚げのやり方も知らんのか?」



「あ…まぁ、俺の地元には無かったんじゃねぇかなぁ。」



しどろもどろの新八に訝しげな眼を送る。



「とにかく、それは外でやるんだな。廊下を走るなよ。」



「わ、わかった!」



そう言うと、たいした雷も落ちずに部屋に戻って行ってしまった。



「お、おい、左之…どうする?」



「こりゃぁもっと凄いことをしねぇと部屋からは連れ出せなそうだな。」



よしっと言って部屋に戻った後、3人が手にしたのは、こまだった。



「このひもをここに巻いて、投げて回すんだって総司が言ってたぜ?」



「よっしゃ~いっちょやるか!一番長く回せた奴が…」



「お、何か賭けるか。」



「そうだな~今夜の酒、おごるってことで。」



「決まり、だな。」



実はこまなど回したことのない三人。果たしてどうなることやら。





「じゃぁ俺から行くぞっ。」



勢いこんだ平助だが、こまは回らずに畳をぼとっと落ちた。



「へっ、下手くそだな。俺のを見てろ。」



そう言う新八も同じようなことに…。



「なんだこれ…意外と難しいんだな。」



えいっ、おりゃっとこまを投げている三人だったが、あまりにも失敗をするので、だんだんとその手に力が入ってきた。



「どりゃぁ!!」



バシッ!



まずは平助が奥の襖に穴を開け…



「こん畜生!!」



ガッシャン!!!



新八がそばにあった置物をなぎ倒した。



「そらよっと!…あ。」



左之の投げたこまも勢い余って襖を破ってしまった。



「こうなりゃやけだぜ!」



総司が望んでることって、要はこういうことだろ、と思った三人は、こまを回すのに必要以上の大騒ぎを始めた。



「お、今少し回ったぜ!」



「まだまだぁ。」



「俺はこの腹の上でも回せるようになったぞ、見ろ!」



左之は腹の傷の上でこまを回している。こまが傷の上を動いていて、まるで綱渡りをしているような…。



「さ、左之さん。何やってんだよ~。」



「左之、やるじゃねぇか。俺は…ここだ!…って、いってぇ~~。」



そう言って新八は自分の舌の上で回そうとして、痛みで飛び上がった。



「何でそんなに馬鹿なんだよぉ、新八っつぁんも左之さんも。」



平助は腹を抱えて笑っている。何という騒ぎだろうか…それもそのはず。総司からあれだけもらった酒瓶はもうすでにほとんどが空になり床に転がっていた。





その様子を陰からこっそりのぞいていたのは総司。



「そろそろだな。」



そう言って向かったのは、雪村千鶴の部屋だった。



「ち、千鶴ちゃん、大変なんだ!」



「沖田さん?どうかしたんですか??」



「新八さんたちが…!ちょっと土方さんに伝えに行ってもらえる??新八さんを止めないとって…。」



「わ、わかりました!新八さんの部屋、ですね。」



「うん。よろしく頼むよ。僕は…近藤さんにも声を掛けてくるから。」



そう言って、雪村が土方の部屋へ行くのを見送ってから、先回りをして土方の部屋を伺える場所まで行った。



「よーし。あとは千鶴ちゃんが土方さんを連れ出してくれたら、これを仕掛けて…と。」