「・・・」
少しの間悩んでいたようだったが、意を決したように千鶴が下を向きながら目の前に進み出てきた。
そして…膝がくっつきそうになる距離まで近寄った千鶴が、
「…土方さん・・・」
少し震える声で俺の名前を呼びながら顔を上げた。
「・・・!」
じっとその潤んだ瞳で目を逸らさずに見てきやがる…と思うやいなや、
「…っ!」
その瞳をおもむろに閉じやがった。なんだこの状況は…。
こんなに近くに千鶴の顔があることなんて、今までなかった。普段男の恰好をさせているから、あまり気にも留めていなかったが…。
・・・綺麗だな。
素直にそう思う。口には絶対出さねぇが。そして、その頬に思わず手を伸ばしかけ…廊下にわずかな気配を感じた。
その気配に、正気に戻って千鶴を見ると、まだ目を閉じたままで、その肩がわずかに震えている。怯えてるのか?…ったく。
「ふぅ…おい。」
フッと息を吐きだし、俺は目の前にある千鶴の鼻をギュッと摘まんだ。
「えっ…何するんですかっ!?」
「それはこっちの言葉だ、阿呆。」
「だって…沖田さんが…」
「奴になんて脅された?」
「お、脅された…わけじゃないんですけど。悪戯なら、『土方さんの目の前で目を見つめた後、目を閉じてじっと動かないでいるといいよ。楽しいことが起きるから。』とおっしゃられたものですから。…ごめんなさい。」
俺に怒られているのだと思ったのか、だんだんその声が小さくなっていった。
はぁ…。こいつはこうも男に疎かったか。
「あー…もういい。」
頭をがしがし掻きながら、
「…さっきの顔、他のやつには見せんなよ。」
顔を見ずに言い、身振りで下がっていいと伝えた。
「…っ!はい…失礼しました。」
千鶴が出て行ってから…
「俺は…今何をしようと…。」
だが。あの顔を他の奴に見せたくねぇ…そう思ったのは事実だった。
「俺には役目がある…そんなことにうつつを抜かしている場合じゃねぇんだがな。」
気付いてしまった自分の気持ちをどう処理したものか…。
それよりも。いつかあいつを普通の女に戻してやらないとならねぇな、と強く思った。
~土方の葛藤・終~