「美里…待たせたな。」
「ううん。私もさっき来たとこ。」
今日は付き合って半年目のデートの日。以前から二人で行きたいね、と話していた…
「あ、ここ♪…ここのチーズケーキがすっごく美味しいんだって。」
とあるカフェに来ている。
付き合ってみて分かったのは、土方さんはお酒より甘いものが好きだってこと。顔に似合わず…なんて前に言ったら本気で拗ねられたからもう言わないけど。
「そうか…楽しみだな。」
私も甘いものには目がない。だから、こうやって同じ好きな物を楽しめるのがたまらなく嬉しい。
店に入ると、まず目に飛び込んできたのはショーケースの色とりどりのケーキ。ここで注文をして、窓際の席でドリンクと一緒に食べられるんだって。
「うわぁ、どれもおいしそう~。」
私が目を輝かせてたくさんのケーキを見つめていると、
「…ほんとにケーキが好きなんだな。」
後ろで土方さんがにやにやと笑みを浮かべている。
「えー…でも、土方さんも好きでしょ?」
私は頬を膨らまして、拗ねたようにそう尋ねた。
「俺は…お前の方が好きだけど?」
「…!」
一瞬何を言われたかわからなくてぽかんとして…すぐにその意味を理解して顔に熱が帯びる。
「な、こんなとこでいきなり何を言ってるの?」
店員さんも気まずそうに微笑みながら、気にしないふりをしてくれている。
「ケーキも好きだが、お前は本当に美味そうに食うからな~。…だから好きなお前と好きなケーキを食べるから、なおさら美味い。」
「…っ。もぉ…。」
付き合ってから彼はこんな調子で、私をからかってばかりいる。私の方が6こも年下だから、きっと大人の余裕ってやつなんだろう。彼のこんな言葉に翻弄させられっぱなしなんだけど…。
でも。
今まで、ちゃんと「好き」って言葉にしてくれる人はいなかったから…。
すごく恥ずかしくて、くすぐったいけれど…
“私、愛されてるんだなぁ”
って感じることが出来る。
「一押しのチーズケーキも食べたいけど…この“季節のフルーツたっぷりタルト”っていうのもすごく気になる~。」
そうやって私はようやく二つに候補を絞ったのだけど、そこから決めきれない。
そんな私を見て、土方さんは…
「両方頼めばいいじゃねぇか。」
と、さらっと言う。
「え…でも…(そんなに食べたら太っちゃうかも)。」
そんなことを思って少し悩んでいると、
「なら、俺はこれにする。」
そう言って土方さんが指さしたのは、さっき私が悩んでいたフルーツタルトだった。そしてその手をポンと頭に乗せられて…
「…半分やるよ。」
目を細めて微笑んでくれる。私は、その子ども扱いしたしぐさに拗ねたふりをしながら、胸がドキドキと高鳴るのを押さえられない。
二つのケーキが席に運ばれてきて、私は自然と頬が緩む。土方さんは、頬杖を突きながら、そんな私を見て…ふっと笑った。
「お前の笑った顔は…やっぱり、いいな。」
「それが俺でなくて、そこのケーキに向けられてるってのが、少しばかりしゃくだけどな。」
そして、そう小さく呟いてふいと横を向いた土方さんが、私は可愛くて仕方がないって思う。
そう。付き合ってみて分かったことがもう一つあった。土方さんはヤキモチ妬きだ。この前も道ですれ違った子犬を可愛がっていたら、拗ねてそっぽを向いていた。
土方さんは営業マンで結構立場も上の人らしい。憧れている事務の女の人も多いって聞く。でも、何でそんな人が私なんか・・・って言ったら、
「ばぁか。…俺はお前の笑った顔に惚れたんだよ。それと一生懸命なとこにな。」
そう照れながら、私の気づいていなかった初対面の思い出を語ってくれた。
バイトしてたコーヒー屋さんの常連さんになるまで、土方さんのことを意識したことなかったからなぁ。
でもこうして。
今、土方さんと付き合うことが出来て…たくさんの幸せをもらった。
そしてこれからも…。
「あ…!そうだ。」
「ん?」
やってみたかったことがあるんだ~と、私は思い切って…
「はい、土方さん。あ~~~ん♡」
私の前にあるチーズケーキをひとかけフォークに乗せて土方さんへと差し出す。
「!」
突然の出来事に土方さんは固まったみたいだったけどすぐに、ぱくっとそのケーキを口に入れた。
「…うまいな。」
平静を装ってそう言うけれど、その耳朶はほんのりと赤味がさしているのを私は見逃さなかった。
「ふふふっ。」
私は嬉しくて笑いながら、自分でもケーキを一口食べた。
「お前がそのつもりなら…」
そう言いながら土方さんが手招きするので、何だろうと思って私は顔を近づける。すると…
ぺろっ。
「…な…っ」
「ん?あぁ。このクリームはやはり甘いな。」
土方さんは顔についていたクリームと一緒に私の唇をぺろっと舐めたのだ。
「…///」
傍から見たら、ただのバカップルだろう。
でも。
私にとっては初めての…ちゃんと“愛してくれる”彼で、私は周りに何と言われても構わなかった。