「誰か…大切な人を亡くしたか?」
その姿から、さっき想像したことを口に出してみる。
「・・・っ。大好きだった源じいちゃんが急に・・・。」
すると、それは当たっていたようで、彼女の目にはみるみる涙が溢れてくる。
あぁ。こんなストレートな物言いしかできないなんて。不器用な自分を恨めしく思う。原口あたりならもっとうまくやるのかもしれない。
「そうか。それはつらい思いをしたな。」
そう言って、彼女の頭を優しく撫でた。慰めの言葉なんて思いつかない。それに薄っぺら言葉は彼女の心には届かないだろう。大切な誰かを亡くすつらさは俺にもよくわかるから。今は泣けばいい…そう思って、俺は黙って彼女の頭を撫でていた。
すると、彼女はますますたくさんの涙を流し、
「小さい頃から源じいちゃんは、私にたくさんのものをくれたのに、私は何も返せてない…っ。もっともっと・・・。」
と言って泣きじゃくって…ふっと、また目を閉じて、意識を失ってしまった。
“生きていてほしかった・・・”
声にならない言葉は、そう紡いでいたと思う。
「おい!大丈夫か…千鶴!!」
俺は慌てて、また前世の名で呼びかけてしまっていた。“…逝くなっ!”とすがり付くが、呼吸はしっかりしているようなので、またほっとする。
彼女の祖父の死が彼女の心にだいぶ負荷をかけてしまっているようだ。早く、家で休ませた方がいいのだが…
どうやって家に帰せばいいのか、と考えていると、母屋の方から親父の呼ぶ声が聞こえる。
「誠也ー、いるか?」
「あー。」
「塩を持ってこい。」
返事をすると、ぶっきらぼうにそう言うから、訳が分からず、塩を持っていくと、親父は喪服を着て玄関に立っていた。
「…通夜に行ってきたのか?」
「…相原源三郎が亡くなった。知らなかったのか?」
「あぁ…」
責めるような目で見られるのには慣れている。俺が物心つく頃には…いや、母が亡くなってからずっとだから。
「どこの家だ?」
そんなことよりも…もしかしたら、そこへ行けば彼女の家も分かるかもしれない。
「もう、終わったぞ。それに…」
「それに、なんだ?」
「いや…帰り際、“孫娘がどこにもいない”とかで騒いでいたから、今行っても迷惑になるだけだ。」
「…!」
逸る気持ちが顔に出るのを何とか抑えて、俺は親父に通夜の行われた家を聞きだすと、急いで彼女を寝かせている社務所へ戻った。
それから、彼女を車に乗せ、通夜が行われたという家まで送って行った。彼女の祖母が出てきて、事情を話すとお礼を言ってすぐに帰った。
結局、彼女には何も話せなかった。
だが…もし本当に覚えていないのなら、無理に思い出させることもない。そうでなくても、大切な人を亡くしたばかりで、心が傷ついているのだから。これ以上、心を乱すようなことはしたくない。
だが…会えた。
それだけで俺は、満足だ・・・
そこまで考えて俺は…ふるふると首を振った。
「…嘘だ。」
もっと声が聞きたい。
笑った顔が見たい。
彼女に、もう一度・・・会いたい。
その気持ちに嘘はつけなかった。
「ふっ…。」
境内の満開の桜を見上げながら思う。
土方誠也として、あの子ともう出逢ってしまったのだから。
明日、おじいさんの焼香でもあげに行くついでに…彼女に会いに行く。
そう決意して、俺は家の中へ入った。
亡くなった彼女の祖父が、勇吾じいさんの入院中に神社を訪れた老人だとは、その時の俺は知る由もなかった。
が、二人の運命は今確かに交わり始めたのだ。
~土方side終わり~