斎藤さんは、甘いものが苦手だったのに…私が満面の笑みで勧めるものだから、そうとは言い出せなかったみたいで、甘~いお団子を一気にほおばって、むせていたんだよね。私は慌ててすぐにお茶を出したんだけど。
恐いと思っていたその人にも、ただの町娘を助けてくれる優しさとか、苦手なものを無理して食べてむせてしまうお茶目さとか…そんな人らしい一面があることを知って、私は出会ったその日に、彼に一目惚れをした。
それから、街で見回りをしている斎藤さんを見かけるたびに、嬉しくなってはしゃいでいた。
周りの人の目も気にしないで、「また、お店に来てくださいね。今度は齊藤さん好みのお団子を用意しますから。」って駆け寄って伝えたこともあった。「あぁ」と言葉少なに言って通り過ぎた後で、「なんだよ~、一くん、今の子だれだれ?」ってからかわれている声も聞こえてきたっけ。
それから齊藤さんは「今、色々な店を回って情報を集めている。…近頃何か変わったことはないか?」とか「巡回の途中なのだが、屯所の茶菓子もついでに買っていこうと思って。」とか色々言いながら、何度かお店を訪ねてくれた。
私が甘いものが苦手な斎藤さんの為に、醤油を塗って焼いただけのお団子を用意すると、「うむ。これなら…。」と言って食べてくれたのが、とても幸せだった。
お団子だけじゃなくて、この人にもっと美味しいご飯を作ってあげられたらどんなに幸せだろうか…なんて思ったりもした。
でも、京の人たちから嫌われてはいるけれど、武士である斎藤さんと、ただの町人の娘じゃ、身分が違う。
ただ、斎藤さんはいつも寡黙だったけど、私があれこれ話すことに、時には真剣な表情で、時には穏やかな目をして聞いてくれた。
そんな風にして、穏やかな日々を過ごしていたんだけれど…いつしか、私が自分の想いをはっきりと伝えることのないまま、世の中は大きく動いて…斎藤さんは戦の真っただ中に巻き込まれていった。
浪士組から新選組に名が変わり、池田屋事件…禁門の変…と血なまぐさい事件が起こるところには、いつも新選組の影があった。
そのあたりから、斎藤さんはお店に来てくれなくなった・・・
どこで何をしているのかわからないまま…斎藤さんへの想いを募らせながら生きていたある日。
風の噂で、彼が、会津の戦で亡くなったことを聞いた。
私は、三日三晩泣き明かした。こんなことならもっと早くに想いを伝えておけばよかった…と後悔もした。
でも、少し落ち着いてから、私はこうも思うようになった。彼には使命があった…だから、たとえ私の想いを伝えていたとしても、彼と穏やかな暮らしはできなかっただろう、と。
自惚れではないが、わずかな期間だけでもああやってお店に通ってくれたってことは、斎藤さんも…少しは私のこと気になっていたって思っていいよね。
そして、私は彼を心の奥底にしまい込んで…お店のお客さんとして出会った他の殿方の元へ嫁いだ。子宝にも恵まれ、それなりに私は幸せだったと思う。
でも…
私は、最期の日まであなたのことを忘れたことはなかった。
そして、“来世ではあなたと共に生きたい”と願いながら、最期の時を迎えたのだった。
そして・・・
こうして、また、あなたと出逢えた。
今度こそ…あなたと共に生きたいです。斎藤さん。
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目を閉じた彼を見つめて、私は思い切って…
「あの…これも何かの縁ですし、これからどこかお茶でも行きませんか?…私近くでおいしいお団子のお店知ってるんです。」
と、言った。彼は驚いた後、少し戸惑いの表情を見せたので、私は、あ…と口に手を当てた。彼はスーツ姿でどう見ても仕事中らしい格好だった。
「ごめんなさい。忙しいですよね…。」
俯いた私を見て、彼は、ふっと微笑んで…
「仕事なら、今終わったところだ。ところで、その店には…甘くない団子はあるか?」
そう言う彼の目元は少し赤かった。私は嬉しくなって、
「もちろんです!…斎藤さん!」
と、声を張り上げていた。
歩き出しながら、斎藤さんは私を見ながら…
「そういえば、あの時…名前も聞けなかったことを後悔していた。」
「!」
「…よかったら、その…名前を、教えてくれないか?」
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私達は、前世での繋がりで出会った…あの時の私達とは同じようで違う。でも、この想いは時を超えても変わらない。新選組ではない斎藤一さんと、お団子屋さんではない私が、共に歩いていく“今”はまだ始まったばかりだ。
☆番外編 終☆