はっきり言って、占いと言うものを俺は信じたことがない。だが…
「…お名前を聞かせてもらえるかしら?」
「…土方誠也、だ。」
そう答えると、実喜子さんはすぐに、
「そう・・・あなたは前世ではずいぶん恐れられていた人のようね。大勢の人の上に立ち、皆を引っ張る存在だった。志、と言うのかしら…心がとても強い人だったのね。」
…お会いできて嬉しいわ…土方歳三さん?」
ずばりと当ててきたものだから…信じないわけにはいかなくなってしまった。
「え、あの有名な?…土方くん、知ってたの?」
「…まぁ、な。」
これでは、ちづるについて聞いたとしたら、それも信じなくてはならなくなる。もし…この時代にちづるはいないと言われたら…それが正直恐かった。
「・・・」
「“ちづる”さんのことを聞きたいのかしら?」
「えぇ…ぜひ、教えてあげて?」
俺の気も知らないで、水沢がわくわくした表情で実喜子さんを見て言った。
「そうね…桜が見えるわ。満開の桜…その下にいるのは、あなたたちね?」
「…っ。」
俺(土方歳三)と千鶴の最期の場所のことだとわかった。
「…あなたのお相手とはもうすぐ会えるはずよ…そうね。次の桜が咲く頃には…。」
そう言って実喜子さんは微笑んだ。
「あなたたちは他の人たちよりも何倍も強い絆で結ばれていた。だから、魂の記憶も、それはそれは、強く残っているはずよ。」
俺は…ふっと息を吐いて、ずいぶん力を入れてしまっていたことに気が付いた。
「そうか…。」
それだけ答えると、なんだか心の憑き物が落ちたようで、実喜子さんの目を穏やかな気持ちで見返していた。過去のちづるの記憶へ想いを馳せながら…だが、
「へー!…よかったわねー」
「・・・」
それは隣の水沢の大きな声によって遮られてしまった。
「ってことはホントに…失恋決定かぁ!」
全く残念そうではない口ぶりで水沢は言った。それから、俺をからかうかのように…
「まぁでも、もし万が一“ちづる”って人が見つからなかったら、いつでも待ってるわよ?」
なんて言って笑った。
「…気持ちだけ、受け取っておく。」
俺が水沢を見て苦笑いをしていると、
「それからね。あなたの後ろには大きな男の人がいて…あなたを守っているようね。…まぁ!大きな拳が入る大きな口をお持ちのようなのね。」
俺は思わず後ろを振り返った。そこには誰の姿も見えなかったが…誰がいるのかは、すでにわかっていた。
そうか。近藤さん…じいさん…そこにいるんだな。…見ていてくれ、俺の生き様を!
「水沢…ありがとう。」
それから俺は水沢へ向き直り、頭を下げた。
「ここに連れてきてくれて、感謝している。」
「ん~私が連れてきたかっただけだから。でも…また飲みたくなったら誘ってくれてもいいよ?」
「・・・。いや…酒は当分こりごりだ。」
本当に…この人は。姉がもう一人できた気分だった。だがそれもまた…悪くはない。
それから俺たちは、実喜子さんの店を後にした。
「ちょっとこの辺をぶらついてから帰るわ。」
と言うので水沢とは駅前で別れた。俺は帰りの電車に揺られながら、まだ見ぬ愛しい人を想っていた。
『桜が咲く頃か。そういえば、俺らの最期の時にも桜が咲いていたな。あの満開の桜を、生きてお前と見たかった…その想いが俺の最期の記憶だ。ちづる…もうすぐ会えるんだな・・・』
そして、俺はその夜、姉にひどいことを言って済まなかったと伝えた。姉は、別になんとも思ってないわよ、って笑って言っていたが、その目はかすかに潤んでいた。
それから、春までの間…
俺は一層剣の稽古に励んだり、神主組合を作るために近隣の色々な神社を訪ね歩いたりして、忙しく過ごした。
お前とようやく会える春は、もうそこまで来ている・・・
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