それから俺は、水沢に連れられて、電車に乗り、大きな街に来ていた。駅を出てずんずんと進んで行く水沢を俺は追いかけて…大通りから一つ路地裏に入ったところのある店の前に辿り着いた。
「月華∼tsukihana∼?…ここは?」
小さな看板が置いてあるだけの、入り口の小さな店だった。
「…私の叔母さんの店よ。」
そう言って、水沢はガラッと扉を開けた。
「…よく来たね。」
まるで俺たちが訪ねてくるのが分かっていたかのように、椅子に座った女性が穏やかに微笑んでいた。
「実喜子おばさん…“運命の人”連れてきたよ!」
「え…。お、おいっ…!」
水沢が俺の腕を掴んで中に引きいれようとする。“運命の人”だと?何を言ってやがるんだ?そう思いながら目の前の女性に目を向けると…
「…違うわねぇ。」
にっこりとほほ笑んで、藍色のローブのような服を纏った女性は言った。それを聞いてすぐ隣にいた水沢は、
「あー、やっぱりぃ?」
あっけらかんと笑って言った。今朝、垣間見た哀しさはもう、どこにも見当たらなかった。
「どういうことだ?」
俺が尋ねると、店の女性は「まぁ立ち話もなんでしょうし。」と言って向かいにある小さな椅子を俺たちに進めてくれた。
「ごめんね、何も言わずにここまで連れてきちゃって。」
座った途端、水沢が俺に向かって頭を下げた。
「ちゃんと確かめておきたくて…」
と言いながら水沢は店の女性の方をちらっと見た。訳が分からず、俺が黙りこんでいると、
「ごめんなさいね、美咲がご迷惑を掛けたみたいで。」
「えー!どちらかというと彼の方が…!」
「…っ!それは…確かにそうかもしれないが…。」
「あはは。ごめんごめん。ちゃんと説明するね。」
あんな失態を初対面の人に話されてはかなわんと思って思わず口を挟んでしまったが、絶対こいつは俺の反応を見てからかってやがる…。
「実喜子おばさんは、私の母方の叔母にあたるんだけど…見ての通り、占い師なんだ。」
どうも~♪と言って笑った目元は美咲とよく似ていた。
「でね、前世も見ることができる占い師で…巷じゃ結構有名っていうか。当たるらしいのよ!」
「ぜ、前世だと…!?」
俺は思わず目を見開いた。そんな俺の様子を見て実喜子さんはにこにこと微笑んでいる。
「でね、私の前世は江戸時代の町娘なんだって。」
「!」
「まぁ、そんな記憶は全く残ってないんだけどね。まぁ、お茶屋さんとか甘味屋さんで働いてたみたいで…そのせいなのか、私、洋菓子より和菓子が好きなのよね~」
まぁそれは別に良いとして…と言って笑いながら水沢は話を続けた。
「で、私は今年で25歳になるんだけど、『25歳までに前世での繋がりのある運命の人と出逢う』なんて叔母さんが言うから…珍しく、あの時合コンに行ったのよ。
・・・そこに、あなたがいた。・・・そして、たまたま立ち寄ったバーで再会した。」
水沢がじっと俺を見つめている。幼子を慈しむような目であり、やはりどことなく哀しげだった。
「…あなただったら、嬉しいなと思ったのよ。」
「なんで…俺なんか…」
「あら?人を好きになるのに、あれこれ理由なんてあって?」
にっと口角を上げて笑った、その顔は…
「でも、どうやら違ったみたいね。」
何かを吹っ切ったかのように晴れ晴れとしていた。
「私のことはもういいわ。きっと別に本当の運命の人との出会いがあるはずだし。」
そして、俺を実喜子さんの前に座らせて…こう言った。
「あなたも、見てもらうといいわ。前世のこと。それから…“ちづる”って人のことも、ね。」