「・・・」




「…大切な人を失った辛さは、他の人よりわかるつもりよ?…私には、父がいないから。あなたのその悲しみも、きっと時間が癒してくれるわ。」



そう言いながら、コーヒーを俺の前に置いてくれる水沢にも辛い時期があったのだろうと思うと、いつまでも引きずっている自分が、どうも子どもっぽく思えてならない。




「くそっ…。」



そして、そんな水沢を見ていると、姉を思い出し、姉にひどいことを言ってしまったことが悔やまれて仕方なかった。あいつの顔を見たら何も言えなくなるだろうが、早く謝りたいと思い、俺は立ち上がる。




「…世話になった。俺は、行かないと…」



「ちょっと待って。…昨夜、何もなかったわけではないって言ったでしょ?」




「…?」



「…昨日、あんなに熱い抱擁と口づけをした仲じゃない?私は…このまま終わらせたくはないなぁ。だって…土方くんのこと、気になるんだもん。」




「な…何言って…」



いきなりの告白と衝撃的な事実を聞かされ、俺は言葉を失った。水沢の顔を見ると、単にからかっているだけではなさそうだ。




「俺は…俺には…。」



ちづるがいる…そう言おうとしたが、




「待って。…知ってるから。」



水沢は少し俯きながら、俺の言葉を遮った。




水沢は姉みたいなところがあるのが玉にきずだが、素敵な女性だ…。どこで出会えるかもわかんねぇ、実際はどんな奴かも知らねぇ、千鶴の生まれ変わりを追い求めていなくたって、目の前にはこんな素敵な女性がいる。そう思うのだけれど…



「…悪いな。」




「いいよ~あんな風に、名前を呼ばれちゃあね…太刀打ちできないよ。」



そうは言っても、水沢はさっきから掴んでいる俺の腕を離そうとはしない。




「でも、キスしたことは事実よ~。そんな大事な彼女が知ったらどう思うかしらね~?」



水沢は何かを勘違いしているようだ。ちづるは…彼女なんかじゃない。




「あ…水沢、そのことなんだけど…」



「でもまぁ、あれだけ酔ってたし、なかったことにしてあげてもいいわ?」




説明しようとする俺の言葉を、また遮って水沢は言う。



「これからある場所に一緒に来てくれたらね?」




おどけた口調と裏腹に、その目は思いのほか、真剣だったので…



「わかった。」




姉に謝るのは今夜でもいいだろう、と俺は承諾した。いったい、こんな俺とどこに行きたいというのだろう。全く見当がつかなかった。