タクシーはやがて、マンションの前に着き、私は背の高い彼をやっとの思いで部屋まで運んだ。
カチャリ。
玄関に入って鍵を締め、ほっとして気が緩んだ瞬間…
「わっ…」
置いてあった靴に躓いて、一緒にその場に倒れ込んでしまった。ゴンと床にぶつかる音がしたが…
どこも痛くない。
「…っ!」
気が付くと、私は彼の上に重なるように倒れてしまっていた。頭を床にぶつけた彼は一瞬顔をしかめたが、まだ意識ははっきりしていないようで、そのまま再び寝入ってしまった…ように見えた。
「ご、ごめんっ…」
慌てて降りようとしたんだけれど、どうしてか、安心しきって眠るその顔から目が離せなかった。
・・意外とまつ毛長いんだなぁ…ってホントよく眠っているよねぇ・・
なんてことを考えながら、彼の顔を見つめていると…胸がドキドキと高鳴ってくるのを感じた。
「…寝てる…よね?」
そう小声で呟きながら、私は、その頬に手を伸ばし、その唇に自分の唇を一瞬だけ合わせた。
「…あは。」
そしてすぐに、自己嫌悪に陥る。酔っぱらった彼を家に連れ込んだ挙句に、自分からキスをするなんて…何をやっているんだろう、私は。
そうして、起き上がろうとした瞬間…
ぐいっ…
力強い腕に腰を抱き寄せられたかと思うと、
「…んっ…。」
強引に唇を奪われた。その唇はとても熱っぽくて…その熱に体の芯が痺れていく感覚を覚えた。
「え…んっ…。」
離れたかと思うと、もう一度深く口づけされる。わずかに空いた隙間から彼の舌が入ってきて…私は思わず顔を逸らして逃げた。
私は、はぁはぁと荒く息をしながら、酔っぱらって眠っていたはずの彼の顔を見下ろした。…一瞬目が合ったように見えた。
だが、すぐにそれは閉じられて、再び私を引き寄せようとしたので…
「ちょ、ちょっと待って…」
ぐっと彼の肩を押して、私は彼の上から降りてその横に座る。彼も気怠そうに上半身を起こして私を見ている。起きているようなのに、彼は一言も言葉を発しない。
私にはその目が…すごく哀しそうに見えた。
さっき知った、大切な人を失った悲しみを誰に打ち明けることもできなくて苦しんでいた彼の姿を思い出し…
そして、
それを支えてあげたい…
そう感じた自分の気持ちを再確認した。