今回視点を勇吾じいさんに変えて書いてます。
~勇吾の想い~
誠也がちづるさん探しを止めて、剣道に打ち込んでいた頃。
わしは誠也の姉、さくらを病室に呼び出していた。
「どうしたの?いきなり、話があるだなんて。一応、総一郎は義母に預けてきたけど…」
さくらは病室に入ってきた途端、「なんかよくない話?」と言って笑った。
「さすがに察しがいいな。…わしはもう長くない。」
さくらの表情がこわばって、固まっている。昔からこの娘には酷なことばかりさせてきたかもしれん。
「もってあと、ひと月か…」
「そんな急に!」
「医者からな、言われたんだよ。手が付けられないくらいわしの病は進んでいるらしい。」
さすがに告知された時は動揺したが、もう受け入れた。それがわしの運命らしい。だから、わしはまっすぐにさくらの目を見て言った。
「わしに何かあったら、誠也を頼んだぞ…!」
さくらはため息を付いて、わしをキッと睨むように見てから言った。
「…それ、誠也は知ってるの?」
「…いや?」わしはさくらの睨みを笑って受け流した。
「なんでっ?」
「はははっ。男の見栄というやつかなぁ。あいつの前で弱っているところなど、見せられんよ。それに、今は剣道に勉強に励んでいるのだろう?あいつがようやく見つけた道を邪魔できんよ。…あいつはああ見えて優しいからな。わしの状態を知ったら、すべてを放り投げてつきっきりで看病するなどと言いかねん。」
「だからって…!」
さくらが怒鳴りつけようと声を上げ、ここが病室であることを思い出したのか、すぐに声音を抑えるようして、わしの痛いところを突いてくる。
「誠也、何にも知らないまま、急におじいちゃんが…死んだら、もっと苦しむかもしれないのよ。」
「そうかもしれんなぁ。」
「わかってるなら…!」
「…すまん。わしにはこうすることしかできん。だから、お前に頼んでいるのだ。いつも面倒ばかりかけて…本当にすまないな。」
「…せめてあの人が見つかるまでは…と思ったが、どうやらもちそうにない…。」と、これは口の中だけで呟いた。
さくらは最後の呟きは聞かなかったふりをしてくれ、大げさな身振りでやれやれといった表情を見せた。
「わかったわよ。これも姉の責任よね。かーさんが死んでからずっと、あいつの面倒を見てきたし、これが少し増えるくらいどうってことないわ。…結婚でもしてくれたら私の肩の荷も下りるってものなのに。」
気丈に笑って見せるさくらは、その母によく似ていた。
「恩に着る。」
「ったく、病人が頭を下げないでよ。…何かあったら必ず私に言ってよね?」
「あぁ。ところで…最近誠也はどうだ?」
「うん…少し前までは何か思いつめたような顔をしていたけど、今は、なんていうか、すっきりした様子ね。」
「そうか。」
「でも…剣道には今まで以上に力入っててすごいのよー。この間の秋季大会で“鬼の土方”ってあだ名をつけられたくらい。まさに怒涛の勢いで優勝しちゃったわ。」
「鬼か…」
思わず目を細めた…やはり魂は一緒なのだな、と思う。
「神社のことも、今は真剣に考えてるみたいね。前は楽に就職できるみたいな阿呆な考えだったけど。勉強会みたいなところにも顔を出しているらしいわ。…今あの子、頑張ってるわよ、理由は知らないけどね。」
さくらは少し非難するかのように見てくる。「一緒に神社をやって、日本一の神主にする」あいつの目的がわかっているだけに、さくらには何も言えなかった。
「あーあー。また私、誠也に嫌われるんだろうなぁ。なんでじいさんのこと教えてくれなかったんだ?って。」
「…すまんな。」
「んー。いいのよ、慣れてるから。」
笑いながら、さくらは「そろそろ帰るね。総一郎も待ってるだろうし。」と言って帰って行った。
あいつもには昔から助けられてばかりだなぁ。強い女になった…いや、それも昔からか。
「少し、しゃべりすぎたか…。」
わしはさくらが帰るとすぐ布団を掛けて横になった。
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・・・目の前にはトシがいた。その目は少し潤んでいるように見える。
「ひでぇなぁあんたは。そうやって俺に重たい荷物を背負わせやがる。」
「局長命令なんだな?」
「あぁ。」
「…わかった。」
「すまんな、トシ。」
そうだ…このあと、近藤勇は新政府軍に投降して…斬首されるのだったな。
切腹も許されず、ただの罪人として首を斬られてしまう。…それが容易に想像できるのに、むざむざと投降させたくはなかっただろうな。
昔から、トシには悪いことばかりしているようだな。
…ただ、これがわしだ。わしの命よりも、トシに…誠也に生きてほしい。誠の信念を持ち続けていってほしい。
それだけなんだ。前世も、病も、死も…すべて受け入れるさ。
思い残すことなんてない。おれは2度も生きたのだから。
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