それから、俺は色んなところでちづるを探し歩いた。大学の名簿に片っ端から目を通して、「ちづる」や「雪村」という名前があれば、呼び出して顔を確かめたりした。剣道の大会で地方に行っては他大学も当たった。
俺はどこかで『顔を見れば分かる』と確信していた。だから、街に出れば、道行く人・店の人の顔を確認しながら歩いていた。
でも、何の手がかりがない人探しというのは、結構…キツイ。
「ふぅ。」
俺は、本屋に行く用事のついでに駅前の繁華街でいつものようにちづる探しをしていた。結局空振りに終わって、歩き疲れた俺は、公園のベンチに腰を下ろした。
日曜日ということもあって、たくさんの親子が遊びに来ているようだった。子どもたちの笑い声が響いている。群がる鳩に餌を与えている老夫婦の姿もある。
「…平和だな。」
あの頃に比べたら、なんて平和なんだろう。もちろん世界中に目を向ければ、戦争やら内紛やら色んな話はある。ただ、いつ斬られて死ぬかもわからない新選組にいたころに比べたら…俺自身は平和な世の中に生まれ変わることが出来たんだろうと思う。
「ちづるも…今平和な世に暮らしてるのか…。」
ちづるを探し始めてからもう2か月は経とうとしている。そろそろ当てがなくなってきたが…こうも思うようになってきていた。
あいつもどこかで平和に暮らしてて、好きな奴の隣で笑っていてくれたらそれでいい…と。
ただ、その隣にいるのが俺でないってのは…やはり…
「…あ、やっぱそうだ、土方く~ん!」
だが、俺の思案は向こうから手を振ってやってくる女の高い声によって邪魔された。
「…ちっ。」
「あ、ねぇねぇ。こんなところで何してるの?暇なら、ちょっと遊びに行こうよ~。」
確か、何日か前に声をかけた女だったか。人違いと詫び、あの場はお開きになったが逆に興味を持たれたのだろうか。そんなことを繰り返しているから、
『土方は女に見境がない』
『何股もかけて、女をとっかえひっかえしている』
などいう噂がまことしやかに流れたりもした。こいつのように逆に誘ってくる女も少なくなかった。
俺は、別に誰に何と言われても構わなかったが…。
「隣、座っちゃおう♪」
「…。」
こいつも一般的に見たら、美人と言う部類に入るのだろう。だが、興味はない…。俺にとって、ちづる以外皆、同じだ…。ちづる探しの弊害は、こうしたことを断るのが少し面倒なだけ。
「悪いが、急いでいる。」
「えー今暇そうにしてたじゃん。」
俺は、ベンチから立ち上がり、女に背を向けてさっさと公園を後にした。大体の女はこれで二度と声をかけてはこない。
それにしても…
「ちづる、ちづる…って。」
俺は口の中で呟き自嘲気味に笑った。こんな状態でちづるを見つけることが出来たとして、もし本当に他の男と幸せになっていたとしたら…俺は耐えられるのだろうか。だったらむしろ、探さない方が…出会わない方がいいのか。
そんな風にも考えて…俺はそれから、このもどかしいような、やり切れない気持ちを剣にぶつけた。少しでも時間があれば、道場に行き剣道の稽古をした。試合形式の稽古には常に本気で、どこかの誰かがそんな俺を見て、
『まるで鬼が乗り移ったみたいだ』
と言った。それを聞いた時は、思わず苦笑いをしてしまった。…ちづるを守るために変若水を飲んだ土方歳三を思い出してしまったから。
…あながち、うそでもねぇか。
それから、じいさんの見舞いにも時々行った。ちづる探しの愚痴はじいさんにしか言えねぇし。あ、こないだ、新選組ファンを名乗る女性観光客が訪れて、土方歳三への想いを延々と聞かされた時は参った、っていう話をしたら大笑いされたな。
どんな病気なのか、いったいいつまで入院するのか、はっきりしたことは言われなかったが、じいさんはいつも通りで入院する前と何も変わらなかったから、そのうち出てこられるだろうと俺は思っていた。
季節が冬に変わる頃。俺に剣で敵う者はこの辺にはいなくなっていた。俺の相手は、奴だけだ…全国大会で戦った…風間。今も、昔も奴だけには…負けられねぇ。
この頃には、俺は躍起になってちづる探しをすることを止めていた。なんとなくだが、俺がどう思おうと、いつかは会える気がしていた。…それが宿命であるならば。