「猫は涼しいところを知っている」
先月はHP製作代金や布団一式買い替えたり
ライブのメンバーへのギャラや経費など
いつもの月よりも格段に出費が多かった。
今日その出穴埋めになればと
古いパソコン・ゲーム機とソフト・本などを売りに
徒歩1時間ぐらいのところにあるブックオフへ行った。
今日も外は暑くてカラダは火照り
非力なオレには荷物は重くて汗ダラダラ。
到着すると店内はエアコンで涼しい。
査定が終わるまで1時間ちょっとかかる。
じゃあ暇つぶしに本でも立ち読みしよう。
Tシャツは汗で濡れてない部分の方が多い。
エアコンがきいてるから汗も乾くだろう。
しかし体内に熱がこもっているようで
汗は乾くどころかどんどん流れてくる。
違和感というか「ここに留まってもダメだ」と感じて
とりあえずコンビニにでも行こうと店外へ。
外へ出た刹那。
宮沢賢治の物語のようにザーッと風が吹き抜ける。
わりと強い風はとても心地よかった。
もしかするとオレはニヤリと笑ったかもしれない。
温度は店内の方が低いけれど
快適さは風の強い屋外の方が断然いい。
流れ続けていた汗もすぐに止まりTシャツも乾いてくる。
暑いと人は汗をかく。
風は汗を蒸発させ気化熱の原理で体温も下がる。
「オレは無意識で風に飢えていたんだ」
そんな風に思った。
査定の待ち時間はコンビニ脇の日陰に座り込んで
タバコを吸いながらこのブログの下書きをしていた。
涼しいしブドウジュースもタバコも美味しくて
なかなか充実した時間を過ごせた。
レインは夏の時期になるとずっと外で過ごす。
エアコンの存在さえ知らない野生動物も
「暑い季節を快適に過ごす方法」を
本能的に知っているのだろう。
夜中に外に出るとオレも「風の涼しさ」はわかる。
湿度は高いんだけれどなんというかな。
「自然」なんだ。
野良猫だったレインは人工的なクーラーより
「外の方が気持ちいいの」だから外で過ごすのだろう。
ご飯に帰ってくる。エアコンをつけているけど
食べ終えるとダッシュで外へ。
猫は嫌なことはしないし涼しいところを知っている。
とにかくレインは「夏は部屋より外が好き」なんだな。
今日オレが体感したように真夏の昼下がりでも
風通しのいい日陰なら意外と快適に過ごせる。
食品ロスをしないむしろ貢献しているであろう
ホームレスもそんな風に生活してるのではと思った。
2004年。
うつ病が最も激しく睡眠薬200錠で自殺未遂した年。
その夏にギタリスト&設備屋親方のひさかたに
「雑用しかできないけれどリハビリ的に
3日ぐらい働かせてくれ」と頼んだ。
初日は楽な現場だった。
地下で水道関係の整備・点検をするひさかたに
ロープにバケツを結び指示された道具を下ろしたり
作業に必要な水のタンクを運んだりするぐらい。
現場が日陰だったし風も吹き抜ける。
しかし地下は無風で熱がこもっていて暑い。
休憩に地上に戻るひさかたは汗びっしょり。
振り返ればやはり「風なんだろう」と思う。
翌日はかなりハードな現場だった。
公営団地の古い配管を取り替える仕事。
水道管は1階住宅の地下にあるから
まず床材を剥がして頑丈なコンクリートを破壊する。
午前中は床材を剥がす作業で終わった。
昼飯を食っているとひさかたが言った。
「カオル。午後はすごくキツいからさ」
2リットルの麦茶を3本手渡しながらそう言った。
4人ぐらいの職人さんたちが
厚さ40cmほどのコンクリートを砕き
配管工事用の大きな大きな穴を開ける。
その破砕されたコンクリをベルトコンベアーで
トラックの荷台まで運ぶ。
破壊マシーンを扱うパワーのないオレは
荷台でコンクリを待ち受ける段取りだ。
炎天下。
トラックの荷台に昇って20秒後ぐらいに
ひさかたの「キツいぞ」がわかった。
大量の麦茶の理由もわかった。
荷台は鉄板。
アゴから滴る汗が鉄板に落ちると
ジュッと小さな音を立てて瞬時に蒸発する。
オレは目玉焼きになった気分で
「きっとここは50℃ぐらいあるな」と。
職人さんたちはガガガガと壊し続ける。
破砕されたコンクリは途切れず運ばれてくる。
ボーリングの球サイズのコンクリから
荷台の奥に積みその隙間に小さな破片を入れる。
適当に積めないし重いし暑いし休めない。
ベルトコンベアーのコンクリ状況の隙を見て
10秒ぐらいの間に麦茶をガブガブ飲むのが関の山。
6リットルじゃ足りねーかもと思った。
17時になり仕事は終了。
午前中や昼休みはくだらない冗談を飛ばしていた
百戦錬磨の職人さんたちも相当疲れたようで
無言でタバコを吸いながら道具の片付けをしている。
今日その時のことを想い出して
「やはり風なのかな」と。
分厚いコンクリートを砕くのには体力がいる。
その粉塵防止でマスクやタオルで口元を覆う。
室内だから風もあまり吹き込まず猛烈に暑い。
熱中症対策の真逆の状況だ。
鉄板上で目玉焼きのオレも直射日光で暑いけれど
全方向から風が来るから閉塞感はないし
気化熱現象で汗は蒸発し続け体温はあまり上がらない。
作業後のオレも疲れていたけれど
トラックに積まれたコンクリートの山を見ると
達成感のようなものもありニヤリと笑ったかも。
オレの仕事より職人さんたちの方が
キツいことも原因だろうけれど
オレがそんなに疲れ果てなかったのは
振り返れば「風のおかげかな」と。
ひさかたも職人さんたちも
今年も猛暑の中ハードワークしてるのだろう。
彼らがいるから(近年は女性もいるが便宜上)
我々は快適に風呂もうんこもできるのである。
最後に余談を。
鉄板目玉焼きの現場は米軍基地の側だった。
時々演習中の戦闘機が金属性の音を立て上空を飛んでいく。
音量もすごいけれど高質な音は生理的に嫌だし
あれがミサイル・爆撃するんだと思えば不愉快だ。
沖縄の基地問題。
政治的などーのこーのなど問題山積みだけどさ。
あの音が1日中低空飛行で身近で聞こえるのは
単純にすごくつらいだろうなと。
暴走族なら通報すれば警察が対処するけれど
米軍機の爆音を通報してもな。
いや。物は試しだ。通報してみるか。
「あの。米軍機の音がうるさくて困るんですけど。
なんとかしてくれませんか。作曲に支障が出るんです」
オレは熱い鉄板の上で
飛んで行く米軍機にスコップを向けて
「バン!」と威嚇射撃をした。
もしかするとニヤリと笑ったかもしれない。
おしまい。