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天声人語 2014年10月22日(水)

 そういえばこんな本があったなと感慨を催した。リチャード・プレストン著『ホット・ゾーン』である。米国でのエボラウイルスと医療関係者との格闘を描いたノンフィクションだ。1994年に翻訳され、ベストセラーになった▼未知の病の凄惨(せいさん)さを知り、衝撃を受けたものだ。先日、緊急復刊されて再び手に取った。著者は書いている。新たなウイルスが次々出現するのは、わがもの顔に増え続ける人類に対して地球が拒絶反応を起こしていることのあらわれではないか、と▼エボラ出血熱の拡大が続いている。その脅威は欧米にも及びだした。死者は4500人を超え、これまでの流行をはるかに上回る規模の厄災となっている。ここにきて、世界保健機関の当初の見通しの甘さなどを批判する声も上がる▼国際NGO「国境なき医師団」のジョアンヌ・リュー会長は先月初め、「世界は敗れつつある」と警鐘を鳴らした。劣勢を押し戻す力量が人間には備わっていると考えたい。現にアフリカのセネガルとナイジェリアでは流行の終息が宣言された▼日本の貢献にも希望がのぞく。富士フイルム傘下の富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬が、エボラ熱にも効く可能性が出てきている。今後の臨床試験で効果が認められれば、この錠剤を大がかりに提供していくという▼『ホット・ゾーン』の著者がいう「地球の拒絶反応」をなんとか和らげなければならない。それにはまさに地球規模で人類が手を携えていくしかない。

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