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天声人語 2014年10月20日(月)

 初代の新幹線はあの「団子っ鼻」が人気を呼んだ。似たような鼻づらながら、こちらは姿形(すがたかたち)が平凡だと評されたらしい。戦後初の国産旅客機YS11の名は中高年には懐かしい。試作機は東京五輪の聖火も運んだ。昭和レトロの空の記念碑である▼敗戦から占領が終わるまで、「航空禁止令」で国内の航空産業は翼をもがれていた。「空白の7年」という大きなハンディを克服して造られたのがプロペラ機のYS11だった。平凡でも、少年の間では新幹線と人気を二分したものだ▼なのに、いつしか忘れられた感がある。航空機ビジネスとしては儲(もう)からず、就航から10年足らずで生産を終えたためでもあろう。その後は、費用もリスクも大きい旅客機の開発は絶えていた▼長い沈黙を破って、国産旅客機が空を舞う日が近いと、きのうの紙面にあった。公開されたMRJ(三菱リージョナルジェット)は、鼻筋の通った容姿が半世紀の時の流れを思わせる。来春にも試験飛行が始まるそうだ▼たとえるならYS11は東京タワー、MRJは東京スカイツリーとなろうか。片や戦後復興と経済成長を鼓舞する技術のシンボル、他方はいっそう洗練されたものづくりの精華である▼欧米何するものと疾走した昭和30年代と、成熟のなかでアジア諸国の隆盛に押されがちな平成20年代。二つの時代は二つの旅客機に異なる役どころを求める。苦戦が伝えられた受注は400機を超えてきた。最後の胸突き八丁だろうが、初飛行姿を楽しみに待ちたい。

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