
天声人語 2014年10月16日(木)付
こんな条文があるのかとびっくりした。東京都千代田区が去年制定した「子どもの遊び場に関する基本条例」である。その前文は小学生同士のおしゃべりから始まる▼「お父さんやお母さんが子どもの頃は、もっと外で遊んでいたって聞くけれど、今はあんまり外で遊ばないね」「家でテレビを見たり、ゲームをすることが多いなあ」「たまには外で思いっきり遊びたいよね」▼条例づくりにあたり、区内の小学生の声を実際に聞いて盛り込んだ。都会の真ん中には原っぱも空き地もないが、彼らに「外遊び」を満喫してほしい。条例を受け、区内の公園や広場4カ所をボール遊びのために日時限定で開放した▼遊び方は世代によって変わり、運動能力に影響する。そのことをよく示す調査結果を、文科省が先日発表した。ソフトボールを投げる力の低下が目立つ。東京五輪のあった1964年の10歳男子は約30メートル、25年後の89年の10歳は約28メートル、そして去年の10歳は約24メートルだ▼遠くに投げるにはコツがいる。野球一辺倒だった我が世代に比べ、いまの子は経験が少ないせいではと文科省は見る。サッカーをはじめ他にも楽しい球技があるし、近隣への配慮といった理由でキャッチボールを禁止している公園も少なくない▼打球があらぬ方向に飛び、民家のガラスを割った経験のあるご同輩は多いのでは。叱られもしたが、謝り方も学んだ。あれはあれで人生の勉強だった、などと言うともっと叱られそうだが、牧歌的な時代ではあった。
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