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天声人語 2014年10月10日(金)

言葉の使い方は時代とともに変わり、時には正反対の意味にもなる。たとえば「煮詰まる」は、煮えて水分がなくなることから転じて、議論などが出尽くし、結論が出る状態になることをいった▼ところがさらに転じて、議論やアイデアが行き詰まり、結論が出せない状態になる意味でも使われている。交渉が煮詰まるとは、本来は合意目前の状態を示したが、いまは決裂寸前の状態を指すこともある▼文化庁が先月下旬に発表した国語に関する世論調査によると、本来の意味を回答したのは半数強で、4割は行き詰まる意味と答えた。50代以上の多くは結論が出る意味で使い、40代以下の多くは結論が出せない意味で使う。真逆(まぎゃく)だ。双方が会話をしたら、どんなことになるのか▼ここまでくると、一概に正誤をいいにくくなろう。げんに広辞苑は2008年の第六版から、「頭が煮詰まって」の用例とともに後者の意味をつけ加えた。俗語として紹介する辞書もある▼もう一つ。「世間ずれ」を、世間を渡ってずる賢くなるという本来の意味で回答したのは36%。世の中の考えから外れている意味という答えが55%で、9年前発表の調査と比べると正誤の割合が逆転した。三省堂国語辞典第七版は誤用と明記しつつ、「世間の動きとずれていること」と説明している▼言葉の変化につれ辞書も変わっていく。ちなみに先ほど書いた「真逆」も新しい言葉で、若い人ほどよく使う。再び三省堂国語辞典によれば00年以降に広まったという。

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