
天声人語 2014年10月7日(火)付
札幌市で長い歴史を誇る北星(ほくせい)学園大学は、キリスト教に基づく人格教育を掲げる。養成しようとするのは、「異質なものを重んじ、内外のあらゆる人を隣人と見る開かれた人間」だ。基本理念に記されている▼他者への寛容と自由な交わりは、社会の風通しのよさを保つために欠かせない条件だろう。学園はまた、戦後50年の節目の1995年に「平和宣言」を出した。「あらためて平和をつくり出すことの大切さと、人権を尊ぶ教育の重要さを思います」とうたっている▼この大学を応援する会が、きのう発足した。「負けるな北星!の会」という。作家の池澤夏樹さんや森村誠一さん、政治学者の山口二郎さん、思想家の内田樹(たつる)さんらが呼びかけた。元自民党幹事長の野中広務(ひろむ)さんらも賛同人に名を連ねる▼大学を爆破する、学生に危害を加えるといった卑劣な脅迫にさらされているからである。慰安婦報道に関わっていた元朝日新聞記者が非常勤講師を務めていることを問題視され、辞めさせるよう要求されている▼過去の報道の誤りに対する批判に本紙は真摯(しんし)に耳を傾ける。しかし、報道と関係のない大学を暴力で屈服させようとする行為は許されない。このさい思想信条や立場を超え、学問や表現の自由、大学の自治を守ろうという識者らの呼びかけは力強い▼「異質なものを重んじ……」という精神を忘れるわけにはいかない。気に入らない他者の自由を損ねる動きが広がる。放っておけば、社会のどこにも自由はなくなる。
集団真理は怖いですね
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