

NIMHの精神分裂病研究部門のデービッド・ショア博士は「目ざめよ!」誌の編集部員に,「最近,精神医学の領域で精神分析の類が行なわれるということは目立って少なくなりました」と語りました。その一つの理由は,フロイト流の分析とそれに関連した洞察療法では精神分裂病は全く治らないということが,山積する証拠から明らかになっているからです。フロイトの唱えた療法は,精神病とは人生経験に対する,また心の無意識の部分に隠された幼年時代の傷跡に対する反応であるという,証拠のない前提に基づいています。そこで分析者は,質問と“自由連想”を用いて,心の無意識の部分を探り,患者が自分の問題の真の原因を洞察できるように助けます。
しかし,精神分裂病患者はすでに意思を通わせる面で問題を抱えています。そのような人に洞察療法を施して探りを入れるのは,フラ・トレ博士に言わせれば,「すでにトルネード(大暴風雨)によって破壊された町に,洪水を送り込む」ようなものです。
患者が治療士に過度に強い感情を抱いてしまう,“感情転移”の危険もあります。患者が治療士に“おぼれて”しまい,治療を縮小できなくなる,と主張する人もいます。それに,異性の一人と親しい関係になると,道徳上の問題を招くことにもなりかねません。
このように,精神病学の主流は生物学的な治療に傾いており,精神分裂病の治療に関して古典的な精神分析は時代遅れとみなされています。もっとも,患者に支えを与え,自分の病気を理解させ,薬を飲む必要性を強化するために,ある種の会話療法を薬物療法と結びつけて効果的に用いることができるかもしれません。また,患者が自分の病気を診断する助けとして,医師が探りを入れる質問を用いることもあります。しかし,これは精神分析と同じものではありません。
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薬はしばしば劇的な効果を発揮する